人生の半ばを過ぎて、残された時間を慈しみつつ生きようとする隆介。その彼にとって、おおらかで奔放な紗江との8年越しの逢瀬は、自分が今を生きていることの証でもあった…。

■紹介文

若い頃、一夜の契りを交わした隆介と紗江。それから15年の歳月を経て再会し、家庭を持つ身ながら、生命のエネルギーを確かめ合うようにお互いにおぼれていく。
人生の充実した時間を迎えた男女が、1400キロの距離を越え、長い年月をかけて醸し出してきた古酒のような味わいのコミュニケーションを手慣れた筆で描いた恋愛小説である。

タイトルの「ほっちゃれ」とは、最後で最大の任務である産卵を終えて身体中ボロボロになって死にかかった鮭のことをいう。秋の半ばごろに海から戻ってくる鮭は、子孫を残すために命がけで川を遡上して産卵したあと、力尽きて一生を終える。そんな状態の鮭に隆介自身の一生をなぞらえたのかもしれない。

■感想

本作のモチーフは、作品全体に常に流れている「時間」である。人生の半ばを過ぎ、残された時間を意識しつつも明日への時間を慈しもうとする隆介。その彼にとって、おおらかで奔放な紗江との性愛は、自分が今を生きていることの証でもあった。時おり訪れる肉体の不如意を紗江との情熱で克服するくだりに、「自己実現への欲望の一部、またはすべてが減退していくことを意識するのは怖い」という隆介の苦悩が巧く表現されている。

◆出版社/文芸社 ◆定価/¥1,575 (税込)

 

わが人生に少しだけアクセントを付けたいと
初老の男が単独行で半年間だけカナダで体験した滞在記

ホームステイは若者たちの特権ではない。ホームステイ先の夫婦やその友人たちと交流を十分に楽しみ、カルガリーの安宿B&Bにも滞在して異なる人種の友達もできた。
また、カナダ独特の自然の中をゆったりと流れる時間に任せて、森に囲まれた湖畔でするキャンプに圧倒されるような流れの中でする豪快な釣りは、「生きていて良かった!」と感じるとき。
彼らとともに行動し、多種多民族の住むカナダを肌で感じるようになったとき、この年齢にふさわしい喜怒哀楽をどのように表現することができたか。
【橋井渓一郎】

■「はじめに」より

家に戻ると真っ先にパソコンのメールボックスを開いて、届いているメールを覗きます。無意識のうちに友や社会とのつながりを求めているのですね。なかなか眠れない蒲団の中で、そんなことに気づきました。日々の暮らしに何か足りないものを感じているのかもしれません。

最近ではもう、幸か不幸か、これといって怖いものもなくなってしまい、脱日常的な感覚を求める情熱も次第に薄れてこようというものです。何だかんだと言っても、60数年も生きていれば、いつ幕がおりるかわからない。それでいて、時間を意識するような年齢になっても、結局は無為に時間を追いやってしまう…そんなことはありませんか?

そのとき一生懸命にやってきたつもりでも結果的には、いい加減に過ごしてしまった気がするわが人生に少しだけアクセントを付けたい。最初は、いたずら心みたいなものでしたが、次第に真剣な思いとなって冷静になって、かねてから考えていたカナダ単独行を決めたのです。

■目次

序章 おお、カナダ! 森と湖の国
1章 静かな時間が流れる片田舎でスローライフを
2章 「英語は度胸!」と腹をくくったのだが
3章 和気あいあいとした雰囲気のなかに結婚式は淡々と
4章 宿を訪ねる客人が多いから話す相手には事欠かない
5章 あのブラウン鱒は私の身長の1/3はあった!
6章 あとは、私の釣り時間となった
7章 結局、カナダ料理ってなんだったのか
8章

日本人、だからどうした?

◆出版社/横濱屋 ◆定価/¥1,000 (税込)