おだやかな諦念か
行き暮れてゆく男と女

…朝のない夜はない。終わりのない幸せもない。
けれどいまも不意に訪れる鈍い痛みのような愛。

「もう僕たちおしまいにしよう」
「えっ、なんて言ったの?」
同じ言葉が用意されていたことのように、同じ風力で繰り返された。
ほんの暫く生々しく熱のある静けさを生んだ。
「そうね」 ふわりと浮いた鳥の翼のように彼女は言った。
この短い言葉の軽さは鮮やかだった。
言葉はいつもシーソーなのだから。
「大丈夫かな?」 違和感のある問いかけがさまよった。

 

◆出版社/文芸社 ◆定価/¥1,100 (税別)