農耕・園芸(ガーデニング)や動物の飼育の本質は、生き物を育てることにある。生き物は私たちの意志とは無関係に成長しているが、その成長を手助けするために、私たちは生き物の反応を手がかりに次の手を打つ。しかし、手をかけたらといって、思い通りに成長するとは限らない。それは育児、子育て、後継者の育成とまったく同じ経過をたどるという意味で、得難い体験をすることが出来るのである。

なかでも、私が専門とする園芸には8つの効用がある。
@収獲の喜びを味わう「生産的効用」
A収獲の利益を得る「経済的効用」
B身の回りの環境が良くなる「環境的効用」
C心が安らぐ「心理的・生理的効用」
D植物を介してコミュニケーションが生まれる「社会的効用」
E体験学習などのひとつとしての「教育的効用」
F運動不足や機能回復、脳や筋肉の廃用性萎縮を抑える「身体的効用」
G責任感や生きがいを生む「精神的効用」
である。

1990年代初め、日本に「園芸療法」が導入されたころは、心身に障害がある人々を対象とする治療、リハビリテーションの手法との捉え方が強かった。しかし、今では、一般市民を対象にした活動もその中に含める「園芸福祉」と言う考え方が生まれている。
例えば、高齢者の園芸を考えてみよう。育てる行為を通じて味わう精神的な充足感のほか、身体を動かすために体力を動かすために体力の衰えを少しでも遅らせ、体調も整えられる。また、野菜や花が出来れば家族や仲間との対話のきっかけが生まれ、孤独化を防げる。さらに、生産的行為が食事や周囲の環境美化に一役買っていて、社会に貢献していることが実感出来る。
それはもっと立派な農産物を、もっと沢山作ろうという意欲、働きがい、生きがいにつながる。児童やアマチュアの先生として、学校や市民農園で栽培指導をすることもありうる。

生きがいをもって暮らすことは、心身ともに健康を維持でき、増大する一方の保険医療費を減らすことにつながる。植物を「育て」、そして「猟(か)る」園芸は、癒やしを求めつつ、人間らしく生きたいという全ての市民の願いを満たす、身近でいつも出来る活動である。

2003年9月15日 西日本新聞より