主催:(財)シニアルネサンス財団/後援:経済企画庁/1999年6月26日(土)開催

当財団は平成4年6月に設立され、主要事業としてシニア ライフ アドバイザー(以下、SLA)の養成・資格付与を行っています。「ジェロントロジー」が養成講座のベースであり、加齢に関する諸問題を総合的視野に立って学んでいます。この講座もこれまでに7回開講し、1,600名程のSLAが誕生しておりますが、回を重ねるごとにこの学問の重要性を再確認いたしております。高齢者が生活していく上で生じる様々な問題を解決していくためにこの学問は必要不可欠です。しかし、現在我国ではこの学問を専門的に学べる機関は皆無です。
そこで国際高齢者年である本年、今回のシンポジウムを企画し開催することによって、我国に「ジェロントロジー」という学問を正しく紹介し、その必要性を周知することに努めました。シンポジウム参加者はシニア世代、福祉分野の関係者、研究者、マスコミ関係者など多様で、熱心にメモをとる姿が印象的でした。当日は立ち見も出る程の盛況で、高齢社会に対する関心の高さ、そして「ジェロントロジー」という我国ではまだ耳慣れない学問に寄せる期待の高さを実感した次第です。

このシンポジウムの目的は、加齢に関する諸問題を総合的視野に立って探求するために、自然科学、社会科学を統合することによって生まれた「ジェロントロジー」を広く一般の方々に紹介することにあり、前半 第1部が基調講演、後半 第2部がパネルディスカッションの構成で行われました。

【第1部 基調講演 13:30〜15:00】
■「日本の高齢化と経済」
 経済企画庁国民生活局局長 金子 孝文 氏
■「ジェロントロジーとは」
 南カリフォルニア大学アンドラスジェロントロジーセンター所長 エドワード・シュナイダー博士

【第2部 パネルディスカッション 15:10〜17:00】
■「ジェロントロジーが日本を変える」
  <コーディネーター>
 安立 清史 氏(九州大学大学院人間環境学研究科助教授)
 <パネリスト>
 デビット・ピーターソン博士(南カリフォルニア大学 レナード・デービス・ジェロントロジースクール校長)
 ロバート・アーチェリー博士(ナローパ・インスティチュート・ジェロントロジー学部学部長)
 柴田 博 氏(東京都老人総合研究所副所長、医学博士)
 花田 光世 氏(慶応義塾大学総合政策学部教授)

■金子氏 ――
平成11年度「国民生活白書」のテーマは「中年の不安と希望」であった。今まで日本の経済は、ピラミッド型の人口構成と年功型の賃金体系によって成り立ってきていたが、現在、人口構成は逆ピラミッド型へと移行しており、それに伴い年功制も崩れていく。こういった急速な高齢化に対応するためには、従来の社会システムを変革しなければならない。幸い日本人は、60歳を超えても労働意欲が高いので、中高年の人々が年齢によって差別されることなく、個人の能力を十分に発揮できる新しい社会を形成していくことが、政府の果たすべき役割であろう。

■シュナイダー氏 ――
ジェロントロジーとは加齢に関する学問であり、既存の領域を越えて生物学、医学、社会学、心理学などあらゆる学問を動員し研究するものである。アメリカでは全部で3100の大学・短大がある内、1600の大学でこの講座があり、専門の博士課程を持つ大学も増加している。私の大学では通常の講座の他に、インターネットにおいても講座を開催している。教室の講義では説明の難しい老化現象(例えば老眼や聴覚障害など)を体験でき、インターラクティブ(相互作用型)という点を最大限に生かした新しい学習が可能である。

■安立氏 ――
現在、日本では急変している社会に対応するシステムができていない。特に生活者のニーズを汲み取ってそれに対応するということが行政、産業の分野、共に遅れている。それらの遅れと我国に於けるジェロントロジーの遅れは密接な関連を持っている。アメリカにおけるジェロントロジーの発展や成果は日本の社会システムにどのような示唆を与えるのか。また増加する高齢者の多様に変化するニーズに、どうやって対応していけばよいのか(サービスしていくのか)。それぞれの専門の立場からの意見をお聞きしたい。

■ピーターソン氏 ――
まず日本においてはびこっている高齢者に対するステレオタイプのイメージを払拭することが先決である。そのために大学レベルで講座を設け、ジェロントロジーを学び、高齢者に関する多くの活動に参加すべきであろう。そうすれば、固定的なエイジズム(老人差別)の概念から解き放たれ、高齢者の生活レベルの向上に貢献することができる。現在、アメリカでは高齢者に対し、技能や能力を生かす多くの機会が提供されている。

■アーチェリー氏 ――
日本にジェロントロジーを啓蒙する一つの方法として、大学や企業、政府、ボランティア組織などに“ジェロントロジーセンターを創設する”ということが考えられる。そこでは一般の人々に対し教育的な機能や正しい情報を提供する機能を持つようにし、特定の問題領域(例えば医療や保険、年金など)を設定し、焦点を絞ることができれば成功するだろう。そして、企業も高齢者市場を獲得するには、加齢や高齢化に対して十分な知識を持った人や高齢者と上手くコミュニケーションをとれる人が製品やサービスの開発などに携わる、すなわちジェロントロジーの知識を持つ人が必要になるということである。

■柴田氏 ――
日本に於いてジェロントロジーは今まで医学が中心で、個人の加齢変化を研究してきた。しかし今日においてこの理解は十分でなく、高齢者の社会全体を問題にする学問であるという理解が必要である。まず、大学にジェロントロジーのマスターコースを設置して教育を広めることが重要であり、次にその教育を受けた人達が活躍する場所を提供しなくてはならない。しかしこれらのことが欠如しているが故、私は“日本にはまだジェロントロジーが不在である”と考えるのである。人間は年をとって衰えていくのではなく、生涯発達していくのだということを日本社会は認識しなければならない。

■花田氏 ――
シニアをどのように新しい産業構造づくりに巻き込んでいくか、ということを考えるとシニアの起業(シニアベンチャー)という方向が見えてくる。これは社会に恩返しするというような感覚よりもむしろ、やりたいことを達成していくという積極的な動機で活動していくことである。企業はキャリアプランの教育を早い段階(30〜40歳くらい)から行い、社員に自立して生涯現役を目指す“アクティブシニア”を意識させなくてはならないだろう。