2015.01.06更新

判断能力が低下した高齢者が、悪質商法のターゲットになっています。

家族の知らないうちに、不必要な商品を大量に購入していたり、詐欺まがいの勧誘にのって高額の支払いをしてしまったりといった事例が頻発しています。犯罪者の巧妙な手口から身を守るのは、一般の人でも容易なことではありません。ましてや認知症などで判断能力が低下していれば、騙される可能性は高くなります。

認知症高齢者は推定で全国に約462万人いるといわれています。どのようにすればこうした被害から高齢者を守ることができるのでしょうか。今回は、悪質商法の実態について考えていきたいと思います。

 

●主なターゲットは高齢者

架空請求など特殊詐欺における被害者の年齢を見てみると、70歳以上が5割以上、60歳以上が約8割を占めており、性別構成では女性が7割を超えています(警察白書平成25年度 特集II 子供・女性・高齢者と警察活動)。下記のグラフを見ると、明らかに高齢者(特に女性)が、ターゲットとされていることが見てとれます。体力や理解力の低下した高齢者は、悪質業者にとってコントロールしやすく、だましやすい相手だと認識されているのです。

また、核家族化の進展により孤立した高齢者が増加したことも、被害が拡大する要因となっています。高齢者の多くは、経済面や健康面で、さまざまな不安を抱えながら生活しています。悪質業者は高齢者に同情するふりをしながら巧妙に接近し、不安をあおりながら、資産を奪っていきます。相談する相手のいない高齢者は、強引に迫られると断りきれず、業者の言いなりになることが多いのです。

例えば2004年に起きたリフォーム詐欺事件では、埼玉県に住む80歳と78歳の認知症姉妹がターゲットにされました。判明しているだけでも19社にものぼる業者が約5000万円分のリフォーム工事を行い、最後には料金を払えない姉妹の自宅が一時競売にかけられる事態にまで発展しました。もしこの姉妹に日常を見守る人や相談相手がいれば、このような悲劇は防げたのではないでしょうか。


平成25年度警察白書 特集U 図II-52 特殊詐欺の被害者年齢・性別割合(平成24年)

 

 

●悪質商法の定義

警察庁によると「悪質商法とは、一般消費者を対象に、組織的・反復的に敢行される商取引で、その商法自体に違法又は不当な手段・方法が組み込まれたもの」ということになります。悪質商法には、いくつかの典型的なパターンがあり、最近は下記のようなものがあります。

<利殖勧誘事犯>
「必ず儲かる」「もうすぐ上場する」などと、未公開株や海外への投資をもちかけ、多額の資金をだまし取ります。最近は「東京オリンピック」「iPS細胞」といったキーワードを利用した詐欺が増えているそうです。また手口も巧妙化しており単純に投資を呼びかけるのではなく「過去の投資被害の救済、老人ホームの入居権、会員権の代理購入」を装ってお金をだまし取るケースも出現しています。
つい最近(2014年11月)も大阪で、再生医療の研究開発を騙った架空投資詐欺事件がおき、高齢者を中心に総額15億円以上の被害を出しました。

<点検商法>
無料点検を装って家庭を訪問し、必要のない工事を施工したり、浄水器等を売りつけたりする商法です。

<送りつけ商法>
宅配便の代金引換サービス等を利用して、健康食品やグッズを一方的に送り付けます。

<催眠商法(SF商法)>
客を集めて雑貨品を無料で配るなどした後、高額の健康器具や健康食品、布団等を売りつける悪質商法です。 ほかにも「押しつけ商法」「霊感商法」といった悪質商法があります。また、オレオレ詐欺も手口を変えながら高齢者の生活を脅かし続けています。

 

●悪質商法の手口

では実際に悪質業者はどのような手口で接近してくるのでしょうか。
1990年代から2000年代に多くの被害者を出したリフォーム詐欺では、高齢者が集中的に狙われました。主な手口は訪問販売員が被害者宅を訪ね、「無料で点検してさしあげます」などといって家の中に入り込み、「このままだと地震で家が倒れる」「瓦がだめになっていて雨漏りしてしまう」などと不安をあおり、契約を結ぶというものでした。断ってもしつこく居座り、契約するまで帰らなかったり、勝手に工事を始めたりという事例もありました。実際の工事を行うため、通常の商行為との線引きが難しく、強引に迫られ仕方なく契約した人も多かったようです。悪質業者の側もそれを認識したうえで、高齢者や気の弱い人、女性を狙い、不必要な工事を繰り返していました。

また高齢者は「押し売り」だけでなく「押し買い(訪問購入)」の標的にもなっています。業者が突然自宅を訪れ、「鑑定してあげるから」などといって貴金属を供出させ、不当な安価で強引に買い取っていくというものです。高齢者の側も威圧的な態度に恐怖を覚え、納得できないまま仕方なく売ってしまうということがあるようです。

実際、全国の消費生活センターには「買い取り業者が断っても退去せずに勧誘を続ける」「威迫的な勧誘を行う」といった内容の相談が寄せられています。なかには認知症高齢者の自宅へあがりこみ、タンスを物色していた業者もいたそうです。この場合ヘルパーさんが気づいたため、ことなきを得ましたが、実際には表面化していない事例も数多くあると思われます。

※従来は押し買いに対する規制がありませんでしたが、現在は特定商取引法が改正され、不当な勧誘行為の規制、書面交付義務、クーリング・オフ等「訪問購入」に係る規制が整備されています(平成25年2月施行)。

 

●悪質商法対策に有効な成年後見制度

上記のように悪質商法の手口は多様化、巧妙化しています。悪質業者は高齢者の判断能力の低下や孤独につけこみ、有利な契約を結ぼうとしてきます。毅然とした態度で断ることができ、クーリング・オフ制度を使えるようであれば問題ありませんが、判断能力の低下した高齢者が単独で業者に対応するのは、かなりの困難が伴います。

こうしたときに、有効な対応策となるのが「成年後見制度」の利用です。制度を活用すれば、判断能力の不十分な人の日常を見守ることができるため、不利益な契約を防ぐことができます。仮に契約を結んでしまったとしても、後見人には代理権、同意権があるため、それらの行為を取り消すことができます。社会全体で成年後見制度をうまく活用できるようになれば、消費者被害を最小限に食い止めることができるようになるはずです。過去に起きた悪質商法や詐欺に関する事件を見ても、後見人がついていれば助かったかもしれないというケースが多々あります。高齢者を守り、安心して生活できる環境を整えるためにも、成年後見制度への理解と普及が急務といえるでしょう。