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2022.02.02 更新

任意後見の実際を見てみましょう。


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資料1は、昭和9年生まれのXさんが、昭和13年生まれの妻(Y1)と、昭和21年生まれの甥(Y2)に、三つのことを依頼した公正証書の実例です。
Xさん夫婦に子はなく、甥をわが子のようにかわいがってきたとのことです。

Xさんが依頼した三つは、「財産管理委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」で、その単語がそのまま公正証書のタイトルになっています。

この事例のように、認知症になるまでの財産管理委任契約、認知症になってから亡くなるまでの財産管理委任契約といえる任意後見契約、亡くなった時の葬儀や届け出を行う死後事務委任契約を3点セットとして一緒に結ぶことは珍しくありません。

以下、それぞれのポイントを解説します。

「財産管理委任契約」の内容は、“認知症になるまで”の銀行取引、年金関係、日用品の購入、病院や介護サービスの契約、悪質商法対策などです。XさんがY1さんに頼んだ具体的内容は資料1(P16)の「代理権目録(委任契約)」にある11項目となります。

認知症にならなくても、年とともに、足腰が弱くなったり何かと億劫になることもあるでしょう。財産管理委任契約はそのための契約であり、認知症になったら任意後見へ切り替える形で財産管理委任契約は終了します。

これは財産に関する委任契約ですから、「介護をして欲しい」「買い物に連れて行って欲しい」「ペットの世話をして欲しい」という事実行為的内容は盛り込めません。ただ、介護をしてくれる人、買い物をしてくれる人、ペットの世話をしてくれる人を探し、その人と契約を結び、お金を払い、その業務をチェックすることを盛り込む(依頼する)ことは可能です。

人により、何が大切であるかは異なりますから、将来のことを自分で考え、それをやってくれる人と内容を詰め、契約内容を作り上げていくことになります。楽しい作業ではないかもしれませんが、現実的な老後の準備の一つと言えます。

依頼内容の二つ目は「任意後見契約」です。つまり、“認知症等になった後”の銀行取引などを代わりにやってもらうよう、元気なうちに依頼します。

Xさんは甥であるY2さんに資料1(P17)にあるように、主にお金に関することを頼みました。また、妻であるY1さんに資料1(P18)にあるように介護・医療・郵便物の開封等を頼みました。全体的に見ると依頼項目は財産管理委任契約と大差ありませんが、Xさんは妻の負担軽減を考え、お金のことや報告事務などが発生する業務は甥に頼んだ背景があります。

財産管理委任契約と任意後見契約は似ていますが、両者の根本的な違いは、Xさんに判断能力があるか否かです。Xさんに判断能力があれば、Y1・Y2さんの仕事ぶりをXさん自身がチェックできます。しかし、Xさんの判断能力が低下するとXさん自身がチェックできなくなります。その結果、Y1・Y2さんが勝手なことをやったり、すべきことをしなくなるとも限りません。するとXさんは困ってしまうでしょう。

そこで、判断能力がなくなってからのことを定める任意後見制度では、Xさんに代わってY1・Y2さん(任意後見人)の仕事ぶりをチェックする監督人をつける制度設計になっています。そして監督人は家庭裁判所に任意後見人の仕事ぶりを報告します。

Xさんは、自分の知らない人が監督人になり、Y1・Y2さんをチェックすることを嫌がりました。そこでXさんは、Xさんの知り合いが監督人になることを望み、その旨、第2条(資料1、P5)に記載しています。しかし、監督人は家庭裁判所が選びます。そして、ほとんどの場合、監督人になるために家庭裁判所に登録している弁護士や司法書士が監督人に選任されるのが実情です。