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2023.03.20 更新

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クイズです。資料33の、「同意行為目録」と「代理行為目録」に重複する内容が一つあります。それは何でしょう?

答えは、「預貯金の払い戻し」です。「同意行為目録」の1の(1)と、「代理行為目録」の1の括弧書きの中に、「預貯金の払い戻し」という単語があるでしょう。

預貯金の払い戻しという行為の取引先は金融機関です。金融機関からすれば、被補助人の要求を聞き、それについて補助人に確認するより、補助人からの要求にだけ応じた方が手間がかかりません。日本における代理権主導の成年後見制度の運用は、後見人、保佐人、補助人の都合のみならず、金融機関等の取引先の都合にも影響を受けていると言えます。
判断能力が不十分になった人の意思を引き出し、汲み取って仕事をしようと考えるか、後見人等や取引先の都合で物事を進め、本人は結果だけ享受できれば良いと考え仕事をするかで、成年後見制度の運用が変わってくるのです。皆さんが、後見される側であった場合、どちらがよいでしょうか?

「成年後見制度は財産管理に偏り、本人の医療や介護を扱う身上監護面がおろそかになっている」と言われることもしばしばあります。また、「代理権が主導となり、同意権や取消権がほとんど使われていない現状は、本人の意思を尊重していないことの表れである」とも言われます。

これら二つのことは、資料33の「同意行為目録」と「代理行為目録」に記載されている内容からも明らかです。本人の意思が反映されやすい「同意行為目録」の内容はお金や財産に関することばかりで、医療や介護、生活に関する内容は一切ありません。後見人等の独断でできてしまう「代理行為目録」をみると、1、2、3、6、7がお金に関する内容で、4、5、8が介護や医療に関する内容となっています。

もし、身上監護面に重きをおき、かつ、本人の意向を反映する運用に切り替えるなら、「同意行為目録」に「在宅で介護を受けるか、施設で介護を受けるかの決定およびその事務」とか「誰と、どこへ、いくらの旅行へ行くかの決定とその手配」というような項目が入ってくるでしょう。しかし、成年後見制度は、重要な財産を保護管理することを主な目的に作られているので、その運用も、登記に記載されているように、当然に財産に関することが大半となっているのです。

「同意行為目録」に、身上監護分野の項目が入ってくれば、本人の意思を尊重した身上監護ベースの制度になりますが、そのためにはそれなりの工夫や法的整備が必要となります。国がそこまで踏み切るかどうかはわかりませんが、法改正はしばらく先のことになるでしょう。現時点で大事なのは、代理権主導の財産管理制度ではありますが、本人の意思を尊重して、具体的には本人と話し合って、物事を進めていくということでしょう。当然に手間がかかりますが、その手間を惜しむのならば、後見人等にならなければよく、制度まで変える必要はないと思います。