成年後見制度を利用することになった背景は様々でしょう。
下記のグラフ(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和3年1月〜12月)」より抜粋)によると、成年後見制度を利用することになった動機として「預貯金等の管理・解約」が一番多く、生活や介護に関する「身上保護」と「介護保険契約」が続きます。それに続いて、「不動産の処分」、「相続手続」、「保険金受取」、「訴訟手続等」が成年後見制度を利用することになった主な動機です。
後見人等としてこれらを行うことになるのですが、まず、「預貯金等の管理・解約」について説明します。
金融機関へ行き、後見人等であることを届け出た後に、本人に代わって、お金を下ろしたり、お金を預けます。キャッシュカードを作ったり、貸金庫に預けているものを取り出します。また、定期預金を解約したり、口座を新しく開設します。
保佐や補助であれば、本人がそれらの行為を主体的に行い、問題がなければ同意して取引を成立させるのが、「できることはなるべく自分でやってもらおう」という考えに照らし、良いとされます。全体として金融機関での取引は、他の業務に比べて、単純で簡単な作業と言えるでしょう。
次に、「身上保護」。生活や健康面の業務です。後見される人は、何かしらの精神疾患があるので、後見人等は、医療、介護、福祉サービスを選び、契約をして、サービスを受けられるようにし、その費用を支払うことになります。その際、医師、介護関係者、福祉関係者と話し合うことにもなるでしょう。
本人の生活の拠点を、自宅にするのか施設にするのかによって、本人の見る景色、話す人、食べるもの、生活リズム、生活範囲、その他がだいぶ変わってきます。この意味で、「身上保護」に関する業務は、後見人としての難関業務と言えます。
関係者との話し合いと生活の拠点が決まれば、どの事業者から、どのようなサービスを、いくら分購入するのかを決めます。都市部においては、在宅介護サービスや老人ホームなどがたくさんあるのでどれを選んだらよいかわからないかもしれませんが、それを比較して決めなければなりません。介護は契約ですから、途中で事業者を変更することもできるので、まずは使ってみるしかないでしょう。
日本中の老人ホームを渡り歩いている「老人ホームの達人」によると、「広報をしていないのに部屋が埋まっている、地元の人が地元の人のために運営している老人ホームが、フレンドリーで良い」と話していました。また、施設が提供するサービスや経営基盤よりも、入居者の民度や文化性が、被後見人のコミュニケーションや人間関係に大きな影響を与えるようなので、「お試し宿泊」というサービスを利用することもお勧めします。
コロナ禍になり、面談可能な施設と面談禁止の施設に大別されました。面談可能も、リモートのみ可、ドア越しに5分なら可、というところが多いようですが、防護服などを用意して、「こんな時だからこそ、ゆっくり面会して欲しい」という老人ホームもあります。面会の手配は老人ホームにとって直接的な売り上げには繋がりませんが、そのようなところに伺うと、「良い老人ホームとはこういうところをいうのかもしれないなあ」と思います。
このように、「施設選び」は被後見人の生活全体を決定づける点で、後見業務の中でも最難関と言えるでしょう。
出典:「成年後見関係事件の概況」最高裁判所事務総局家庭局(令和3年1月〜12月)
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