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2023.03.23 更新

例えば、父親の相続を行うにあたり、母親が認知症の場合、亡き父親の遺産を分割する際に、税理士等が、「成年後見制度を使わないと相続できない」ということがあります。そして、家庭裁判所での手続きを経て、息子が後見人になったとします。

遺言がなければ法定相続で遺産を分けるのが原則なので、母親が二分の一、残りの二分の一を子供の人数で割ることになります。これで相続は完了し、お父さんのことを思い出しながら家族みんなが前向きに生きていくことになります。

ここで、「母親にはそれなりの蓄財があるので相続は無し、孫の学費などで色々大変であろう子どもたちで私の遺産を均等に分けなさい」というお父さんからの遺言があったとします。この場合、お父さんの遺言に従い、お母さんの後見人として、遺留分(法定相続分の半分)を求めないとすると、家庭裁判所は、「遺留分は相続してください」と言ってくるでしょう。

あるいは、「この相続については、後見人である息子さんと被後見人であるお母さんの利益が相反する。つまり、お母さんが相続しなければ息子さんの取り分が増え、お母さんが相続すれば息子さんの取り分が減るので、後見人である息子さんは公正な判断と仕事ができない」として、家庭裁判所は、弁護士や司法書士を後見人に追加してきたり、弁護士や司法書士を監督人に選任して送り込んできます。そうしてやってきた弁護士や司法書士は、お父さんの遺言を無視して、遺留分を請求します。そして、それ以降、後見人や監督人の地位を確保し続けるのが、現状では一般的な運用となっています。

認知症があっても多少のことが話せるお母さんが、「お父さんのいう通り、私にはお金があるから要らない。だから、相続しない」といっても、「いやいや、もらえるものはもらわないといけない」と弁護士や司法書士に押し切られ、不必要なお金がお母さんの口座に入ることになるでしょう。それを見た、お母さんや子どもたちは「なんだこれ?」となりますが、現在、成年後見制度における遺産分割の実態は、こうなることがほとんどなのです。

もっと言えば、相続が見込まれる案件であれば、最初から家族は後見人に選ばれず、見ず知らずの弁護士等が後見人になることがほとんどです。成年後見をはじめるために家庭裁判所に提出する資料として、「相続財産の一覧」が新たに設けられましたが、その書類が新設された背景には、このような遺産分割の実状があるのです。

弁護士等が後見人として遺産分割を行うと、大きな仕事をしたということで、数十万円から数百万円の報酬を得ることになっています。相続をするために成年後見制度を使ったばかりに、多額の費用がかかってしまったと嘆く人が多いのも頷けるでしょう。要らないと言っているお母さんの意思を尊重しなかったり、身上を配慮しない、といった後見の実態が、相続や遺産分割の際に露呈するのです。