家庭裁判所が、誰を後見人にするか、何を、いくらでやらせるか、を決める法定後見の運用は硬直的と言えます。背景には、「自分で後見人を決めておかなかった人に、国(家庭裁判所)が文句を言われる筋合いはない」という考え方があると言われています。
法定後見は、「いつも何もわからない」とされる後見類型、「わかることとわからないことが混在する」保佐類型、「およそのことはわかるが気が弱くてうまく出来ないこともある」という補助類型の3つに分類されますが、その本質は次の点で共通です。それは、被後見人、被保佐人、被補助人となった人は、単独では取引ができなくなるという点です。これを「制限行為能力者」といいます。名の通り、能力がないので、単独行為を制限される人になるという点で、後見だろうが、保佐だろうが、補助だろうが同じということです。
日本における「制限行為能力者」は4種あり、被後見人、被保佐人、被補助人、未成年者です。つまり、法定後見制度を使うと言うことは、契約をもとに取引を行う経済社会において、未成年者と同じ扱いを受けられるよう、家庭裁判所に手続きを取ることに他ならないのです。
未成年者には親、いわゆる親権者がいます。つまり、未成年者の親と、後見人、保佐人、補助人は同じような存在なのです。その違いは、親は子供のために無償で行いますが、後見人、保佐人、補助人は、被後見人、被保佐人、被補助人から報酬としてお金をもらうことができると言うことです。
2000年に誕生した成年後見制度の立法担当者である小池信行氏(元法務省審議官)によれば、「現在の後見制度は、その前身となる禁治産・準禁治産制度がそうであったように、判断能力が不十分になった人の家族が、無償で、代理業務を行うことを想定している」とのことです。しかしながら、2000年以降、家庭裁判所は本人の家族を後見人、保佐人、補助人に選ばず、いわゆる職業後見人と言われる弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士、税理士、精神保健福祉士、社会保険労務士などを法定後見人に選任するようになってしまいました。
親族を後見人等に選任する場合でも、弁護士等の監督人を付けたり、司法書士等を財産管理の後見人、親族を医療や介護関係のみの後見人という具合に、役割分担型のスタイルを多用し、親族に、被後見人のお金を触らせない運用に特化するようになりました。そのような制度運用を心配してか、家族による法定後見開始の申し立ての手続きが伸び悩んでいます。そのため、身体や生活は介護保険で、お金のことは成年後見で、という高齢社会の車の両輪がチグハグになっているのが現状です。
されど、認知症になり銀行からお金を下ろせない人、介護サービスを自ら選べない人、それらを代わりにやってくれる家族がいない人は少なからずいます。そして、元気なうちに将来に備えて任意後見契約をする人も年間1万人程度と、多くはありません。任意後見契約をせず、判断能力が不十分になってしまった人の、気持ちと、お金と、地域経済が、健全に回る法定後見の実現もしくは復活に期待したいものです。
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