2023.03.29 更新

ジェロントロジーという学問分野には、晩年期の高齢者の価値観に関し、「老いの超越」という理論があります。「齢を重ねたからこその達観」ともいえる超越理論は、85歳以上の高齢者の特徴を、3つの分野、すなわち、自我超越、善悪二元論超越、時空間超越の視点から整理し、合計9つの項目で具体的に表現しています。

「自我超越」の3項目は、
@ 自分のために、あれをしたい、こうしたいという気持ちが弱くなってきた
A 誰かのために、何かをしたいという気持ちが強くなってきた
B 自分の健康や気持ちに対するこだわりが減ってきた
です。

全体として、利己より利他、つまり、自分のためより、今の自分が誰かのためになっているという実感が本人の幸せにつながるいう考え方です。認知症になってからの「利他」とは何なのか、皆さんもよく考えてみてください。後見人になったら、認知症かつ晩年期の被後見人の「利他」とは何か、被後見人に代わって考え、実行してみて下さい。

「善悪二元論超越」の3項目は、
@ 「あの頃は良かったなあ」と昔を振り返ることが減ってきた
A 「お金/地位/名誉」というものに重きを置かなくなってきた
B 人間関係は量より質と思うようになってきた
です。

終わったことは気にしない、お金も要らない、大切な人との関係を大切にしたい、という考え方です。この考えに基づくと、例えば、後見人になって、昔のお金の貸し借りに躍起になり、弁護士を使って裁判を起こしお金を取り戻すことは、被後見人にとってあまり価値のないことと考えられます。そんなことより、被後見人にとって大切な人との関係を充実させる手配が重要なのです。「家族に会うと家に帰りたいと言い出すから、家族と本人を会わせないのが本人のためによい」とか「墓参りなど意味がないから連れて行かない」と言う後見人も散見されますが、それは適切な業務とは言えないでしょう。

3つ目の分野である「時空間超越」の3項目は、
@ 自分の存在や命は、過去と未来をつなぐ一部分と感じるようになってきた
A 自分の存在や命は、宇宙という大きな空間につながっていると思うようになってきた
B 生と死に区別や境界は無いと思うようになってきた
です。

「自分と時間」「自分と空間」という考え方です。あるとき70代後半の女性から、「私は、娘として、妻として、母として、社会人として、そのお務めは十分に果たしました。この世に未練はないから宇宙に行きたい。宇宙がどんなところか見てみたい。片道切符でいいから行きたい。後見人にそのことを頼めるかしら」と聞かれたことがあります。そのとき、私はこの「時空間超越」を思い出しました。その方は、「そのためなら自宅も全部売っていい」と付け加えていましたので、「その思いを、任意後見契約に盛り込んでおくか、公正証書に残すなどしておけば、真に良い後見人ならその手配をしてくれると思います」と伝えた記憶があります。未熟な私にはまだまだ未知の世界です。