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2023.03.30 更新

例えば、お父さんが亡くなり、相続が発生したとき、子供の一人に知的障害や精神障害があるとします。すると、相続手続きを頼んでいる税理士やお父さんの預貯金口座がある金融機関から、「後見制度を使ってください」とか、「後見制度を使わないと相続できない」と言われることがあります。

しかし、障害を持つお子さんの実印があれば、後見制度を使わなくても、お父さんが残した財産を家族で有難く分けることがおよそ可能です。なぜなら、金融機関の相続手続きの書類に実印を押し、署名をすれば、金融機関は預貯金の払い戻しをするからです。

しかし、障害を持つお子さんの実印を作っていないケースが結構あります。これまでに実印を使うような重要な財産の取引をしてこなかったからです。障害者が実印を作る場合、本人が役所の窓口へ行って、印鑑登録をしたいと申請する場合と、本人から委任状を取って、家族が、印鑑登録をする場合の、2つの方法があります。

本人が窓口へ行って、手続きができる様ならば、家族が本人と一緒に窓口へ行って、通常の手続きを取ればよいでしょう。本人が窓口へ行けない場合や窓口へ行くことができても、印鑑登録の手続きを取れそうにない場合、本人から委任状を取って、親御さんなどが役所へ行きます。すると、役所から本人あてに「親御さんが来たけれど、印鑑登録するの?」という手紙が来るので、「するよ」と記載し返信します。そして、後日、親御さんが役所へ行けば印鑑登録が済んでいます。後は、金融機関の相続手続きの書類にハンコをつけて署名すれば相続は終わり、後見制度を使う必要はありません。

その際、遺産の分け方としては、本人の取り分は法定相続分か、その半分くらいにするのが、遺留分という観点からも無難な選択だと思います。しかし、それは法的なことであり、家族でよく話し合い、割合を決めて、将来にわたって本人に不利がないようにすれば、さほどの問題はありません。

ところで、次のような方法は、障害者の親御さんに比較的人気です。それは、障害をもつ本人に兄弟姉妹がいる場合、あるいは、兄弟姉妹がいなくても本人の世話をしてくれそうな個人や法人がいる場合、「私の遺産をあなたにあげるから、そのお金で、障害をもつ本人の世話をしてね」という仕事付きの贈与です。施設への支払い、個人的な趣味の支払い、お墓の維持管理など、することは様々あるでしょう。

最後に、障害を持つお子さん名義で貯金をする親御さんは多いのですが、後見制度を使用するという観点からすると、これは好ましい貯め方とは言えません。預貯金が多いほど、家族がいても、家族が後見人になれないからです。また、預貯金が多いほど、同じ仕事でも、後見人の報酬が2倍にも3倍にもなってしまうからです。一般的に、障害者の後見は、高齢者の後見よりも長期になります。その分、報酬も掛かり続けるので、気が付けば、後見人への報酬が1000万円を超えていたというケースも少なくありません。

この点、20年後から毎月10万円支払われるというような、年金型の民間保険に加入することで、子供に行くお金の額は同じでも、後見制度でかかる費用を下げることに成功している親御さんもいます。そのような勉強会もあちこちであるようなので、参加してみるのも良いかもしれません。