2015.03.06更新

認知症などで判断能力が不十分となった方をサポートするための制度として「成年後見制度」がありますが、よく似たサービスに「日常生活自立支援事業」という制度もあります。
今回は成年後見制度と日常生活自立支援事業との相違、概要や特徴などを紹介します。

 

●成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

「成年後見制度」と「日常生活自立支援事業」は、どちらも判断能力が不十分な方や生活に不安がある方を支援する制度です。この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。

成年後見制度は法務省が所管しており、家庭裁判所に選任された後見人が、身上監護や財産の管理、法的なサポートを行います。後見人には代理権や取り消し権などが付与されており、法的な支援体制が充実しています(内容は補助・保佐・後見の類型によって変わります)。 一方、日常生活自立支援事業は、支援内容が日常生活の範囲に限られており、福祉サービス利用の支援、日常的な金銭管理サービス、書類(通帳・証書など)の預かりサービスなどを行っており、成年後見制度に比べあまり重大な行為はできないとされています(日常生活自立支援事業にも、福祉サービスの利用手続きや預貯金の払い戻しなど、制限された範囲内において代理権があります)。実施主体は都道府県・指定都市社会福祉協議会で、サービスを利用するためには、社協と契約する必要があり、最低限契約内容を理解することのできる判断能力が必要となります。

成年後見制度は法律の裏付けがしっかりしている反面、家庭裁判所での手続きが必要になるなど、利用開始へのハードルが少し高くなっています。対する日常生活自立支援事業は、社協に相談して必要と認められれば、比較的簡単にサービスを受けられるようになります。成年後見制度に比べて法的なサポートは制限されますが、安い費用で気軽に利用できるサービスといえます。

ただし、日常生活自立支援事業は、本人にサービスを利用する意思があり、内容を理解できることが契約の前提となっています。ですから認知症などが進行してしまった人は利用することができません。

 

両制度の比較(表1)
  
成年後見制度
日常生活自立支援事業
所管庁 
法務省
厚生労働省
対象者 
判断能力が不十分な方
後見=常に欠けている状態の者
保佐=著しく不十分な者
補助=不十分な者
判断能力が一定程度あるが(契約内容を理解できる程度)、十分ではない方
相談窓口
地域包括支援センター、家庭裁判所、弁護士、司法書士、社会福祉士等
市区町村社会福祉協議会
担い手
家庭裁判所が選任した成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人
社会福祉協議会
生活支援員、専門員
手続き
申立権者が家庭裁判所へ申立、裁判官の判断で後見開始
社会福祉協議会に相談・申込後、本人と社会福祉協議会が契約
費用
すべて本人の財産から支弁 (申し立ての手続費用、登記の手続費用、後見の事務に関する費用、成年後見人、監督人に対する報酬費用 等)
相談は無料(社会福祉事業として契約締結までの費用は公費補助)、契約後の援助は利用者負担
  
費用の減免又は助成
成年後見制度利用支援事業として申立費用・後見人への報酬の補助、リーガルサポート(司法書士会)による成年後見助成基金
生活保護受給世帯へ派遣する場合の生活支援員の賃金は、国庫補助対象経費
※自治体独自で減免している場合もあります

 

 

●利用方法

成年後見制度は、法定後見(すでに判断能力に問題のある方)と任意後見(現在の判断能力に問題はないが将来に不安をもっている方)の2種類に分かれており、どちらを選ぶかによって手続きの流れが変わってきます。

法定後見の場合、支援対象者の判断能力に応じた類型(補助、保佐、後見)を選択します。次に家庭裁判所へ後見等開始の申立てを行います。申立てが可能なのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長、他となります。申立てに必要な書類や様式は裁判所によって違うこともあるので、詳細については対象者の住所地を管轄する家庭裁判所に問い合わせてください。

申立てが終わると裁判所が後見を開始してよいか、調査・審問を行います。このとき判断能力を正確に調べるため、医師による精神鑑定を求められることがあります。そして最終的に家庭裁判所の審判によって後見を開始することとなります。

任意後見制度は、判断能力が確かなうちに、将来の後見人と後見内容を定めておく制度です。利用の手順としては、最初に支援者と支援内容を決め、公正証書で任意後見契約を締結、契約内容を法務局に登記しておきます。その後、判断能力が衰えた段階で家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行い、審判を受けた後、後見を開始します。
後見人は後見がスタートしたら、本人の生活を守るため、財産管理や身上監護を行い、定期的に裁判所に報告書を提出します。

一方、日常生活自立支援事業を利用したいと思った場合、まず地元の社協に相談します。すると専門員が本人の希望を聞きながらサービス内容や支援計画を作成してくれます。このとき本人に契約する能力があるかどうかを審査したうえで、契約を行います。支援計画は、支援内容や判断能力の変化に合わせて見直すことができます。

利用料は社協ごとに違いますが、訪問1回あたり1200円程度が平均となっています。事前の相談やそれにかかる費用は無料となります(社会福祉事業として契約締結までの費用は公費補助)。契約が完了したら専門員や生活支援員が契約内容に則ったサポートを開始します。たとえば金銭管理では、社協が通帳やキャッシュカードを預かり、毎月必要な額をおろして本人に渡すといったサポートを行っています。さらに通帳の引き落とし金額をチェックしたり、盗難防止のために通帳や書類を預かったりといったこともしています。こうしたサービスは高齢者の不安を取り除くだけでなく、近年増加傾向にある悪質商法や詐欺被害、親族による金銭搾取から高齢者を守ることにもつながっています。

また、福祉サービスの利用援助として、介護関係の情報提供、契約の代行や手伝いなども行っています。他にも郵便物の整理、趣味活動への参加の援助、医療に関する支援など、日常生活に関するさまざまなサポートを実施しています。

厚生労働省では、日常生活自立支援事業の内容を下記のように定めています。

 

〈日常生活自立支援事業における福祉サービス利用援助事業の内容〉

本事業に基づく援助の内容は、次に掲げるものを基準とします。
・ 福祉サービスの利用援助
・ 苦情解決制度の利用援助
・ 住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助等

上記に伴う援助の内容は、次に掲げるものを基準とします。
・ 預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理)
・ 定期的な訪問による生活変化の察知

 

 

●事業誕生の経緯と現状

では、成年後見制度や日常生活自立支援事業はどのような経緯で制定されることとなったのでしょうか。

平成9年に国会で介護保険法が制定され、福祉サービスは行政による「措置」から「契約」へ移行することとなりました。しかし、判断能力の低下した方は、必要な契約すべてを単独で行うことはできません。そこで福祉サービスの「契約」や日常生活を支援する制度が求められるようになり、平成12年の介護保険制度施行を目前に控えた平成11年に「地域福祉権利擁護事業」がスタート、平成19年に「日常生活自立支援事業」と改称しています。また、平成12年には介護保険制度と同時に成年後見制度もスタートしています。

次に両制度の現状についてですが、成年後見制度の利用者は、17万6564人(図1参照 平成25年12月末日時点)でした。一方、日常生活自立支援事業の利用者は4万2333人で(図2参照 平成25年9月末時点)、成年後見制度と日常生活自立支援事業を合わせると約20万人以上が利用していることになります。20万人というと多いように思いますが、認知症高齢者の数は約462万人と推計されています(厚生労働省調査平成24年推計値)。なんらかの支援を必要としているにもかかわらず、制度を活用していない高齢者が数多く存在しているのです。

しかし実際には、事業の知名度の低さなどから、利用者数をなかなか増やすことができていません。両制度とも高齢者の生活の質を向上させるために必要な制度ですが、まだまだ利用が進んでいないというのが現実です。

 


最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 −平成25年1月〜12月−

 

 


※平成25年度は9月末の実利用者数
出典:日常生活自立支援事業「月次調査」(全社協調べ) こちらを参照