2015.06.08更新

厚生労働省はオレンジプランの中で「認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う認知症カフェ等の設置を推進する」という方針を示しました。今年発表された新オレンジプランでもその方針は、継承されています。
一般での認知度はまだ低いのですが、認知症の方や家族、地域住民が交流する場所として「認知症カフェ」の需要は高まっています。

 

●認知症カフェとは


認知症カフェと一口に言っても、その形態はさまざまで明確な定義があるわけではありません。運営主体もNPO法人や社会福祉法人が主催していることが多いようですが(※図1参照)、自治体や高齢者施設などが運営している場合もあります。スタッフはボランティアや介護職、家族会の会員などが勤めています。名称もさまざまで「認知症カフェ」や「オレンジカフェ」「物忘れカフェ」「居場所カフェ」などと呼ばれています。
基本的に数百円以下の参加費でコーヒーやお茶などが楽しめ、なかには軽食を取ることが可能なところもあります。

全体数ははっきりしていませんが、ここ数年で数を増やしているようです。新オレンジプランでは認知症カフェを地域での日常生活・家族の支援の強化として位置付けており、「平成25年度から国の財政支援を開始。平成30年度からすべての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により地域の実情に応じ実施」と明記しています。認知症カフェに相当するものは以前からありましたが、政府が指針を示したことにより近い将来普及が進むことが予想されています。

 


複数回答あり。
公益社団法人 認知症の人と家族の会 2013年(平成25年)3月 「認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業 報告書」より引用

 

 

 

●認知症カフェの活動例


認知症カフェは必ずしも常設されているわけではありません。福祉施設や病院、空き家、民家、公共スペースなどを利用して週1回、あるいは月1回といったペースで開催されるケースが多いようです。カフェには認知症の人やその家族、介護者、ボランティアの人が集まり、お茶を飲みながら交流を深めています。飲食の提供以外にも専門職による介護相談、勉強会、音楽会などが開かれています。
参加条件や活動に対する制限が少ないため地域の実情に合わせた形態をとることができ、初心者でも気軽に参加することができます。認知症介護について悩みをもっているが、どうしてよいか分からないという人にとっては参加しやすいのではないでしょうか。 厚生労働省の資料には、具体的な活動例として下記のような認知症カフェの例が示されています。

活動例@
認知症カフェの取組の一例
(K市地域包括支援センターの取組)

● 1〜2回/月程度の頻度で開催(2時間程度/回)
●通所介護施設や公民館の空き時間を活用
●活動内容は、特別なプログラムは用意されていなく、利用者が主体的に活動。
●効果
認知症の人 自ら活動し、楽しめる場所
家族 わかり合える人と出会う場所
専門職 人としてふれあえる場所(認知症の人の体調の把握が可能)
地域住民

つながりの再構築の場所(住民同士としての交流の場や、
認知症に対する理解を深める場)

※厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第47回) 資料2「認知症施策の推進について」より引用

 

また認知症の人や家族の人をサポートしている「認知症の人と家族の会」では、認知症カフェの要素と特徴を次のように定義しています。

<認知症カフェの要素7つ>

【要素1】認知症の人が、病気であることを意識せずに過ごせる。
【要素2】認知症の人にとって、自分の役割がある。
【要素3】認知症の人と家族が社会とつながることができる。
【要素4】認知症の人と家族にとって、自分の弱みを知ってもらえていて、かつそれを受け入れてもらえる。
【要素5】認知症の人とその家族が一緒に参加でき、それ以外の人が参加・交流できる。
【要素6】どんな人も自分のペースに合わせて参加できる。
【要素7】「人」がつながることを可能にするしくみがある。

<認知症カフェ 10の特徴>

1. 認知症の人とその家族が安心して過ごせる場
2. 認知症の人とその家族がいつでも気軽に相談できる場
3. 認知症の人とその家族が自分たちの思いを吐き出せる場
4. 本人と家族の暮らしのリズム、関係性を崩さずに利用できる場
5. 認知症の人と家族の思いや希望が社会に発信される場
6. 一般住民が認知症の人やその家族と出会う場
7. 一般の地域住民が認知症のことや認知症ケアについて知る場
8. 専門職が本人や家族と平面で出会い、本人家族の別の側面を発見する場
9. 運営スタッフにとって、必要とされていること、やりがいを感じる場
10. 地域住民にとって「自分が認知症になった時」に安心して利用できる場を知り、相互扶助の輪を形成できる場

公益社団法人 認知症の人と家族の会 2013年(平成25年)3月 「認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業 報告書」より引用

 

 

●介護負担を軽減する


なぜ今、認知症カフェの普及が急がれているのでしょうか。ひとつには認知症を介護する人の負担が大きくなっているという問題があります。
現在すでに460万人以上の認知症高齢者がおり、その数は今後ますます増加していくことが予測されています。
認知症の方の中には体は元気で徘徊を行うような方もいますし、うまくコミュニケーションがとれず介護者にあたってくる方もいます。特に初期の認知症の場合、普通に生活していながら突如として問題行動を起こすため周囲も病気であることが受け入れられず、「なぜ問題を起こすのか」と怒ったりします。認知症の介護は本人にとっても介護する者にとってもストレスのたまるものなのです。実際、認知症の方を抱える家族からは「目が離せない」「気が休まらない」「睡眠不足」になるといった声がよく聞かれます。
そうした介護者たちの憩いの場として設けられているのが認知症カフェなのです。認知症カフェにはボランティアや専門職の人がおり、悩みを聞くなど相談に乗ってくれます。また、同じような悩みを抱えた認知症の人や家族が集まっているのでお互いに情報交換をし、苦労を分かち合うこともできます。認知症カフェを利用することが、介護者の負担軽減やストレス解消につながっているのです。
さらに認知症カフェには、孤立した介護者と地域社会を結びつけるという側面もあります。福祉制度を活用できる人ならば問題ないのですが、他人に迷惑をかけたくないということから、我慢して一人で抱え込んでしまう方もいます。こうした介護者の孤立を防止するのに有効なのが認知症カフェといえます。カフェに顔を出せば、地域社会のさまざまな人とコミュニケーションをとることができ孤独感から解放されますし、家族が気づかない健康上の変化などに気づいてもらえることもあります。さらに交流を通して地域の人に認知症についての理解を深めてもらうこともできます。

政府の示している新オレンジプランの基本理念は「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」というものです。可能な限り本人の意思に沿って、居宅で適切な介護を行うということが目標とされています。実際に4割以上の高齢者が自宅で介護してほしいという希望をもっています(図2参照)。しかし居宅での介護が理想だからといって、家族だけに負担を強いるというやり方には限界があります。
認知症カフェは、喫茶店に行くような感覚で気軽に出かけることができ、楽しみながら新たな人間関係を構築することができます。さらに支援の必要な人には、状況に応じて福祉行政や施設へとつないでいくこともできます。まさに地域ネットワークの入口的存在でもあるのです。

 

平成26年版高齢社会白書(全体版)第1章 第2節3-3 内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(平成24年)
(注)対象は、全国60歳以上の男女