今、私の回りには『豊かな食物』があふれています。都会の食料品店には、かぞえきれないほどの『食材』が、『処狭し』と並んでいます。
戦時中、中等学校学徒動員令で、敗戦日までの1年余り、生家を離れて工場で働き、全寮生活を送った私は、今でも当時の『ひもじい辛さ』を思い出すことがあります。今、発展途上国の子供たちが、食を求めて無気力にさまよう姿と、子供をかばってわずかな『食』を、わが子に与えている映像をみると、57年前のまずしかった日本を思い出してしまいます。今日、健康でここまで生きることができたのは、あの頃の両親の心のこもった食物があったからだと思っています。戦前、祖父母、両親が、折に触れて言っていた『食べ物を粗末にしない、自然のお恵みに感謝!』の会話が、今、蘇ります。


私が信頼している家庭料理の専門家・管理栄養士の伊藤華づ枝さんは、最近、上梓された食事に関する著書の中で、「家庭料理を通しての一家だんらんの、この古くて正しい基本生活をもう一度見直し『現代家庭料理の楽しみ方』を今、改めて考えてみたい」と述べておられます。家族がつくる味、家族だんらんの温かい気持ちと笑顔こそが、家族の『健康』につながることを私は親とこの相談活動の中で感じています。
実は、現在、愛知県社会福祉協議会で40歳以上の方の相談と、名古屋市生涯学習センターで子育て支援の講座と相談活動をしています。このボランティア活動の体験の中から『私たち日本人の食生活』を今一度考えてみることを相談者におすすめしています。それは、「親の心で家族の喜ぶ顔をイメージして食材料を選び、家族が楽しんで食べる顔を想像して料理する」ことをすすめるのです。すると、相談者は、『やってみます』と約束するのですが、なかなか長続きしない。そこですかさず『笑顔、笑顔、笑顔を忘れないでね!』とやさしく追い打ちをかけてカウンセリング。根気くらべです。果たして繰り返すうちにお母さんに笑顔が見られるようになるのです。暗示にかける…勿論個人差はありますが…。子供は敏感に感じ取るのです。


昭和27年生まれの長男が幼稚園のとき、『お母さん、人参は土の中にできるの?』と聞いたので、姑にそのことを話したら『田舎で見せてあげるといいね』と言われました。
早速、私の故郷(岐阜県郡上郡白鳥町)の実家の回りの田や畑のあぜ道、緑したたる白山山系の山々。小川のせせらぎ、清流長良川の釣りなどを見せてやりました。自然に触れた息子は、なぜ? なに? どうして? と質問攻め。私の両親はうれしい悲鳴をあげておりました。以来、長男・次男の小学校時代の夏休みは、田舎で過ごさせてもらったお陰で、季節の食品の良さを身につけることができたのではないかと思います。『ワサビ(山葵)は、きれいな水の流れの中で育つんだよ』…この会話も、懐かしい心の交流のひとときでした。


地方の時代といわれている今、地域で農産物の情報交換が盛んです。
愛知県在住の、岐阜県出身者と岐阜県にゆかりのある方々の集い『なごやかサロン・岐阜四水会』では、『今月の農産物トピックス』を発行して、消費者が自分で確かめて自己決定できるように、正しく新しい情報を提供しています。私は、なごやかサロン運営委員の一人として、生産者の努力も的確に伝えていくことが、賢い消費者の食品選択眼につながっていくと思います。
また、消費者サイドに立った農産物の資料提供には、愛知県西春日井郡にある『岐阜県名古屋事務所農産物情報センター』が受け持っておられます。
昭和43年に消費者保護基本法が施行された後も、加工食品、食品添加物の問題は、消費者を不安にしたこともありますが、私は研究者として賢い消費者・誠実な生産者の為に『消費者教育辞典』を有斐閣から発行できたことは、執筆者の一人として、よいお仕事ができたと思っています。