<2015.09.02 更新>

SLA養成講座で得た気づき

---藤井さんは、現在シニア大樂理事長として活動をしていますが、何をきっかけにシニア問題に興味をもつようになったのですか?

私は現役のとき広告代理店に勤めており、40代後半に官公庁担当となりました。当時のクライアントは、中曽根内閣時代の総理府広報室で、政府の立案した政策をどうやって国民に伝えるかというキャンペーンを担当していました。その後小渕内閣まで12年間にわたり、各省庁と一緒になって仕事を進めていきました。40代から50代後半までのことです。

当時私の勤務していた会社は60歳が定年でしたが、仕事に夢中で定年後のことは深く考えたことがありませんでした。しかし定年を意識するようになった55歳の頃、あることに気がつきました。それは厚生省を始めとするすべての省庁の施策が、高齢化対策の方を向いているということでした。そこで高齢者問題に興味をもつようになり、定年後は高齢社会に対応したことをやってみたいと思うようになりました。高齢者問題がいまのように深刻化する前の話で、マスコミの扱いも小さかった時代です。

ちょうどその時期、職場の異動もあって、定年後のことをより真剣に考えるようになりました。なんとか高齢社会で活躍する方法はないものかと、模索を続けていたのです。そして図書館で情報を収集していたとき、シニア ライフ アドバイザー(以下、SLA)という資格に行き当たりました。見つけた瞬間「あ、これだな」と思い、すぐにシニア ルネサンス財団へ問い合わせをしました。そして1999年、SLA養成講座を受講したのです。

SLAを取得するためには養成講座を受講して、修了試験に合格する必要があります。私も8日間(土日を4週間)にわたってみっちりと勉強しました。シニアに関することを幅広く取り扱った内容で、シニアにはさまざまな問題があることが理解できました。ここでジェロントロジーについて学べたことが、高齢者問題に対する視野を広げるきっかけになったと思います。

受講したなかで印象に残っているのは、当時のシニアルネサンス財団 喜多村会長の言葉でした。会長は受講生を前に「みなさんは全員、あと20年間は活躍できますよ」とおっしゃったのです。そのとき私は59歳でしたが、定年後については、漠然としたイメージしかもっていませんでした。ところが「20年はがんばれる」という話を聞いて、何かできるのではないかと勇気づけられたことを覚えています。
さらにその後、事務局長の河合さんが定年後の自由時間に関する興味深い試算を話してくれました。それは大卒のサラリーマンが定年まで勤めあげた労働時間と、定年後の自由時間がどちらも約11万時間になるというものでした。サラリーマンとしてがむしゃらに働いてきた時間と同じだけの自由時間が、定年後には待ち受けているというのです。余生といって片づけるには、あまりにも膨大な時間です。これはいい加減な活動はできない、人生設計をやり直さなければと感じました。こうしたことに気づくことができたのも、SLA養成講座を受講したおかげだと思っています。

養成講座の修了試験に合格した翌年、受講したメンバーと一緒にシニアルネサンス財団がハワイ大学で開講した「ジェロントロジーセミナー」に参加しました。定年前だったので休みをとって参加したのですが、それだけの価値はありました。
講座の最後にジェロントロジー教育の第一人者、南カリフォルニア大学のデビッド・ピーターソン博士の話も聞くことができました。博士は「これからシニアのボランティアは、有償ボランティアになっていく。無償ボランティアほど無責任なものはない」と述べられました。有償ボランティアには、金銭のやりとりがあり、ボランティアする側とされる側の間に契約が発生します。そのことによって責任が生まれ、クオリティの高いサービスにつながっていくという考えです。博士の言葉はこれからのボランティアがどうあるべきかを考えるうえで、大きな刺激となりました。


仲間と活動を開始

---SLA養成講座を修了した直後はどのような活動をしていたのですか?

最初は資格を取ったものの明確な目標もなかったため、何をしてよいか分からないという戸惑いがありました。そこで養成講座を修了した後、一緒に受講したメンバーで集まって何かしようではないかということになりました。数度の集まりやハワイでの受講を経て、10人ほどの中心メンバーが固まっていきました。ただ、具体的な活動にはなかなかつながらず、月に一回集まってみんなで飲むということを繰り返していました。そして1年ほどたったとき、このまま無為に過ごしていても仕方がないので、みんなでやりたいことを出しあおうではないかということになったのです。そこで私は、現役時代の経験に基づいて「シニアを講師にする」というアイデアを提案しました。

広告代理店に勤務していた私は、プレゼンテーションに必要ということで、話し方教室に通っており、その教室の卒業生を集めた「3分間スピーチの会」などの運営に携わっていました。こうした異業種交流会で培ったノウハウをなんとか高齢者問題につなげられないかと構想したのが「シニアの講師紹介」というプロジェクトです。シニアは長年の社会経験から獲得した貴重なスキルや知識を有しています。そうした専門分野のエピソードを分かりやすく話すことができれば、シニアの生きがいや小遣い稼ぎにもつながるし、面白い企画になるのではないかと思ったのです。

自治体が市民講座の講師さがしに苦労しているという話も耳に入っていたので、需要と供給がうまくかみ合うだろうという予測もありました。
そしてAAA(アクティブ・エイジング・アソシエイション)というグループを作り、自治体などに講師派遣を働きかけてみました。ところが何の実績も知名度もないグループですから、なかなか依頼がありません。そこで信用を得るためにNPO法人申請をして名前も現在の「シニア大樂(だいがく)」に改めました。

法人申請をしているタイミングで全国紙の取材を受ける機会がありました。取材自体はある団体が主催していた話し方講座に関するものだったのですが、その時「シニア講師を派遣するNPOを始める」という構想を話したところ、記者の方が非常に興味をもち好意的な記事を掲載してくれました。
するとこの記事が大変な反響を呼び、朝刊配達直後から問い合わせの電話が鳴り続きました。最初に電話をかけてきたのはTV局のプロデューサーで、すぐに密着取材を受けました。さらに他紙も、さまざまな視点から記事を書いてくれました。おかげで活動が世間に知られるようになり、あっという間に300名の講師希望者が集まりました。現在では500名ほどの登録があります。

---最初はどのような講師の方が多かったのですか?

新聞に載る前は、異業種交流会の講師が中心でした。バラエティに富んだメンバーでしたが、新聞に載った後はさらに幅が広がって全方向から講師が集まりました。あらゆるジャンルの講師がそろったため、どんなオーダーがきてもこなせるようになりました。そういった多様性がシニア大樂の強みになっています。
性別では男性が多く、年齢は定年後の方が多くなっています。現役世代の場合、日本の会社はアルバイト禁止のところが多いため、会社にばれるのが怖くて登録を取り消してしまうということもあります。ただ、最近はボランティア活動を奨励する会社もありますし、自営業やフリーターの方などもいますので、年齢層は少しずつ広がっています。


明確なコンセプトをもったグループ作り

---藤井さんは、SLA取得後スムーズに活動へとつなげていった印象があります。一方、養成講座を受講してもなかなか活動に結び付けられない人もいます。その違いは何なのでしょうか?

一人では何もできませんから、まずはグループを作ることです。SLA養成講座にはいろいろな経験をした人たちが集まってきます。各人の専門分野を生かして協力すれば、なんでもできると思います。まずは、同じ地域の方とグループを作ってみることです。
シニア大樂の場合、メンバーは首都圏全域に広がっています。実はこれはメリットでもあり、デメリットでもあります。エリアが広がれば交流の輪は広がりますが、集まるのに交通費がかかってしまうという問題が生じます。活動を開始するにあたってはそのあたりも考慮に入れておいた方がいいでしょう。

チャンスの神様は前髪しかないと言いますから、前髪をつかむため、あらゆる方向にアンテナを張り、チャンスがあればすぐに動きました。その繰り返しが今の活動につながっています。そういった意味で、価値観を同じくするSLAをベースにグループを作ってよかったと感じています。ジェロントロジーを学んだ仲間が、問題意識を共有して同じ方向を向いていたからこそ、チャンスを見逃さずに活動できたのです。組織も大きくなりすぎると、機敏に動くことができなくなります。まずは活動に適した仲間を見つけてください。

---活動を広げていくコツのようなものはあるのでしょうか?

私たちのメンバーは非常に仲が良く、月に一回は集まって飲んでいます。具体的な活動を始める前から、飲み会のなかで企画についてあれこれと話していました。最近も連絡会議で集まった後は、必ず居酒屋などで飲むようにしています。特にテーマを設けて話し合うというわけではなく、集まってコミュニケーションをとっているうちに新しいものが生まれていく感じです。イベントを開いた後もスタッフや参加者が一緒になって、ささやかな成功を祝います。こうしたコミュニケーションが、活動の広がりや継続性を生んでいるのだと思います。

---SLAで学んだことは、シニア大樂にどのように活かされていますか?

「元気なシニアをバックアップする」という基本コンセプトはSLA養成講座で学んだことです。これからの高齢社会では、何ごとも国に頼るのではなく、個人個人が自立していく必要があります。J.F.ケネディの名言に「国が何をしてくれるかではなく、あなたが国に何ができるのかを問いかけてください」というものがあります。シニア大樂の行動原理にも、この自助自立の精神が息づいているのです。

シニア大楽のスタッフは自分のできることを自分で見つけて動いてくれます。PCの得意な人がホームページを作り、話のうまい人がイベントの進行を仕切ってくれるなど、それぞれがスペシャリストとして活動しています。個人個人がリーダーの指示を待つのではなく、自分ならではのスキルを生かして主体的に活動することにより、大きな活動につながっているのです。ひとりですべてをこなすことのできるスーパーマンはなかなかいません。メンバーの特技を集めて大きなミッションを遂行するのです。こうしたスタイルは、自助自立をモットーとするSLAの精神そのものではないでしょうか。

---シニア大樂はSLAが母体となっているわけですが、活動を進めていくうえでメリットを感じたことはありますか?

まず前提としてSLAは意識が高く、シニア社会の役に立ちたいという意志をもっています。同じ感覚をもった仲間ですから、話が速く進むということはあると思います。 そういったこともあって、新しく入った人にはSLA養成講座を受講するように勧めています。やはりジェロントロジーを知っているかどうかで見えてくるものに違いがあります。シニアについてよく分からないまま活動している人よりも、勉強している人の方がより広い視野で状況を見ることができ、問題意識のもち方も適切になります。

---専門分野をもったスペシャリストは活動が明確化されています。しかし一方で「私には何もない」と言って活動を躊躇している人もよく見かけます。そんな人たちに何かアドバイスはありますか?

最近、シニア大樂にも長年専業主婦だった方が入ってきます。話を聞くと自分には専門分野がないから「何もできない」というのです。冗談で「何もできないなら、肩でももんでよ」と言ってからかったりするのですが……。実際は集会の受付をしてもらったり、資料配布を手伝ってもらったりと、なにかしらの仕事をしてもらっています。まずはグループで活動してみて、そこから自分なりに課題を見つけていけばよいと思います。グループに属していれば何か役割はあるものです。

また、私は迷っている人には、とにかくSLA養成講座を受けてみなさいと勧めています。実際に受講したメンバーは、知識が身に付き自信と余裕が出てきます。勉強を進めるなかで新しい問題意識も生まれてくるし、それが新しい活動へのきっかけともなります。

---最後に、これからSLAの勉強をしよう、活動してみようと考えている人たちへ何かメッセージをいただけますか。

私が受講した当時は、高齢社会を身近に感じるということは少なかったように思います。しかし今や人口の4分の1が高齢者という社会となり、高齢者問題は社会全体の重要な課題となっています。シニアの研究というと昔は専門科目的な扱いでしたが、今や必須科目となっています。老いは皆に平等に訪れます。決して避けては通れない問題なので、できるだけ多くの人にSLA養成講座を受講して欲しいと思います。

養成講座では幅広い分野について学習することができます。書籍などで独習する場合、どうしても自分の興味のある分野に偏ってしまいがちですが、養成講座では総合的に学習することで強制的に視野を広げてくれます。ある受講者の方が「専門分野に関する講座はたくさんあるけれど、シニア問題を幅広く学べる場所は少ない」と言っていました。シニア問題を包括的に学び、活動のきっかけにするにはSLAが最適なのです。

また、活動を始めるならば少しでも早い方がいいでしょう。もちろんいつから始めても遅いということはありませんが、できれば定年前からセカンドライフについて考え、活動の準備をしておくと、より充実した活動ができると思います。


NPO法人シニア大樂
ホームページ http://www.senior-daigaku.jp/index.html

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