<2015.12.25 更新>
◆私のための講座に出会う
---SLA養成講座を受けようと思ったきっかけを教えてください。
末積:平成8年、地元福岡の西日本新聞夕刊で、シニア ライフ アドバイザー養成講座(以下、養成講座)が九州で初めて開かれるという記事を目にしました。私は元来、勉強は嫌いなのですが、なぜか「びびっと」きたのです。そしてこれは「私のための講座」だと確信し、直感に従って申し込みました。一次審査となる論文もあまり深く考えず、自然体で書いたのですが幸いにも合格の通知をいただくことができました。
---「私のための講座」とおっしゃいましたが、それまでに高齢者問題に関心はあったのですか?
末積:それは育った環境と祖母の影響があったのかもしれません。私の祖母は、「できることをさせていただく」「お互いさま」ということをよく言っており、周囲の人の世話をよくしていました。そういった環境で育ちましたから、高齢者問題に関わる土壌はあったのだと思います。
◆感謝する気持ちを忘れずに
---末積さんの活動に大きな影響を与えている生い立ちについて教えていただけますか?
末積:終戦後の混乱期に神戸に生まれ、母方の祖母のもとで育ちました。祖母は、やさしい人でしたが、しつけには厳しく、私はその祖母の影響を強く受けています。たとえば、家では毎日、仏さまにお供えをしていましたが、私のおやつはそのお下がりでした。手を合わせて「いただきます」と言ってからおやつをいただいていました。そういったことから、宗教的な堅苦しい意味ではなく、「おかげさま」とか「感謝する気持ち」といったことが自然と身についていきました。これはSLAの精神にも通じるところがあると思います。
進学についても祖母が「ここ以外はだめ」と強く勧める女学校へ行きました。その学校は祖父が設立に関わっていたのですが、当時は知らなかったため「私の学びたいのはここではない」と反発していました。卒業後も東京の大学へ行きたいという意志はありましたが、許されませんでした。そんなときに知り合ったのが現在の夫で、夫の実家は額縁工場をもつ美術商でした。早く家を出たいという思いが強かった私は21歳で結婚します。祖母も美術に造詣があったので、結婚に賛成してくれました。
思い通りの学校へ行けなかったため、「学びたい」という気持ちは引きずったままでしたが、夫に「結婚してからでも学校には行けるじゃないか」とプロポーズされ結婚を決意しました。しかし、すぐに子供ができたため子育てに忙しくなり、学校どころではなくなってしまいます。それでも合間をみて大学に入学しましたが卒業には至らず、自分で学び終えたという感覚をもつことができませんでした。現在SLAの学習に対して熱心に取り組めているのは、そういった思いの裏返しなのかもしれません。
それにSLAで学ぶようになってから「自分は学歴が欲しいのか? 本当に学びたいことは何なのか?」ということを考えるようになりました。今ではSLAの学びが面白く、本当の学びがあると感じています。
---末積さんはステンドグラス作家や講師としてもアクティブに活躍されていますが、これはどういったきっかけだったのでしょう?
末積:私は異人館のある神戸の北野で生まれました。国際的な街で自分の家や友達の家など身近なところにステンドグラスがあふれていました。ステンドグラスは私にとっての原風景ともいえるような存在でした。ただ実際に制作するようになったのは結婚後のことです。夫の実家は額縁メーカーでしたから、工場へ行くとガラスや木材を工作する機械がありました。最初は遊び半分で夫と一緒に、木枠へガラスをはめ込んだものを作っていました。そうしたことがきっかけで、ステンドグラスに興味をもち、作るようになったのです。当時は材料屋もなかったので、海外へ行ったときに持ち帰ったり、取り寄せたりしていました。そうやって作ったステンドグラスが好評を得て、異人館などで作品展を開いたこともあります。
その後、家族で福岡に移住します。ステンドグラス制作は自宅のマンションで続けていたのですが、周囲の人から教えて欲しいと言われるようになり自宅を開放しました。月謝をもらうと束縛されるようで嫌だったので、「遊びに来てくださるならいいですよ」という感じで教えていました。すると30人ぐらいの人が集まるようになって、自宅が社交場のようになってしまいました。こうなると家事もできなくなり、家族にも迷惑をかけてしまうので一旦閉鎖しました。
ちょうどその頃、地元のカルチャースクールから教室を持ちませんかという提案がありました。最初私は講師をするつもりはなかったので、知人を紹介しましたが、その知人が療養することになり、私が講師を引き継ぎました。現在はカルチャースクールを離れ、個人で教室を開いています。
うちの教室には長期間、習い続けている人がたくさんいます。みんな教室へ来てステンドグラスを作成するかたわら、楽しそうに話をして、お茶を飲んで帰っていきます。私の教室ではプロを養成している訳ではないので、楽しい人間関係を築くことを第一に考えています。九州シニア ライフ アドバイザー協会(以下、協会)にも同じことがいえます。高齢者にとって居場所があるというのは重要なことなのです。
---末積さんは、協会創立時から継続して活動を続けています。
末積:会員の中には途中、転勤などで別の地域に行かれた方や、協会を抜けられた方、他の活動に転向される方もいました。協会設立時から会員として現在も活動を継続している方は約10名ほどでしょうか。私は協会の活動が大好きで、こんなに楽しいことはないと思っていますから、18年間ずっと協会で活動を続けています。自分で言うのもおかしいのですが、これほどまでに好奇心を満たしてくれる場所は他にありません。
---協会以外で活躍されている方もいるのですか?
末積:地域の中で民生委員や町内会長などとして活動されている方がいます。協会の活動と両立されている方もいますし、協会を離れて活動している方もいます。SLAの理念は学ぶことだけではなく、学んだ内容を地域や社会、家族のために役立てることですから、いろいろな分野に進んで行くことは良いことだと思います。そうした理念を体現するためにも、協会はシニア問題にどこよりも敏感であるべきだと感じています。
---養成講座で学んだことは実際の活動にどう活かされていますか?
末積:一番役に立っているのはSLAの精神です。講座ではさまざまな高齢者問題について学習しました。年金の計算まで学習して頭がいっぱいになったこともあります。しかし、それだけではなく、学習した内容を地域へ還元するという意識をもてたことが重要だったと思います。SLAには、地域へ貢献するという精神が強く根付いているのです。
また講座が終わった後、事務局長の河合さんが来てくださり、相談員の心構えなどを話してくださいました。そこでは傾聴に徹するといった基本的なことから、活動につなげるための方法論のようなことまで教えてもらいました。
他地域で活動している方を講師として連れてきてくださったこともあります。実際に活動している人の話は大変興味深く、みんな目をきらきらさせて聞いたことを覚えています。専門知識を詰め込むだけではない講座内容が、今の私を形作っているのだと思います。
---末積さんは 福岡市人権啓発センター事業推進協議会にも関わられていますが、どのようなきっかけからですか?
末積:当時人権啓発センターでは「ハートフルフェスタ」というイベントを開いていたのですが、いまひとつ盛り上がっていませんでした。協会も人権啓発センターの登録団体だった関係で、「なんとか盛り上げる方法を考えてくれないか」とセンターから相談をうけました。そこで「協働事業というなら企画委員会のようなものを作って企画段階から参加団体を引っ張り込むべきではないですか」と提案しました。すると翌年、「末積さんのいう通りに絵を描いたので、企画委員会に入って欲しい」と打診されたのです。最初は1年だけのつもりだったのですが、2年目以降もやることになりました。
活動にあたっては常に「させていただけてありがたい」というスタンスで取り組むようにしています。自分から手を挙げたポジションではないのですが、得ることもたくさんあります。また、交流の輪が広がりいろんなところで声をかけられるようになりましたし、他の団体へ行っても敷居が高いと感じることがなくなりました。
---登録団体はほかにもあったと思うのですが、なぜ末積さんにお声がかかったのでしょう?
末積:協会はセンターの登録団体でしたから、施設を無料で使うことができました。しかし私たちは、無料で使えるのが当たり前だとは思っていません。使用させていただけてありがたいという気持ちがあったので、掃除や挨拶をきちんとやり、「なにかあればお手伝いしますよ」と言っていました。協会の会員はみんな感謝の気持ちをもって活動にあたっており、そういった姿勢がセンターの信頼につながったのだと思います。
◆学んだことを社会に還元することが大切
---九州SLA協会 会長として今後、協会をどのようにしていきたいとお考えですか?
末積:私は協会の創立時から運営に携わっており、会長になる前は協会の支援室という役についていました。そこでPR活動や自主活動研究会(以下、研究会)の支援を行っていました。研究会とは会員が自主的にテーマを決めて開くグループのことで、会員の要望に沿った形で、さまざまな事柄を勉強しています。
協会では学習だけではなく知識を社会に還元することを重視しています。会員が研究会などで学習したことを、電話相談事業や行政との協働事業などにつなげることができるように支援しています。私が会長になって7年ほどになりますが、こうした創立以来のスタンスを変えるつもりはありません。今後も会員が勉強し、活動していく場を提供し続けていくつもりです。
---研究会についてもう少し詳しく教えて下さい。
末積:研究会は会員が自主的に立ち上げた学習のためのグループです。「福祉研究」「生きがい研究」「成年後見」などテーマに沿った形で設けられています。テーマは時代によって変化しており、参加者が減少して休会になったものもあれば、新しく立ち上がるものもあり、常に5つから6つの研究会が活動しています。会員の多くは、何らかの研究会に属しており、そこで学習しながら高齢者問題への理解を深めていきます。各研究会の定例会はだいたい月一回のペースで開かれており、会員活動のベースとなっています。研究会に属していれば、月に一回は集まることになりますし、発表するとなれば、準備のために奔走しなければなりません。それが生きがいにつながっているという会員の方もたくさんいます。
研究会での学習は、知識を増やすだけでなく人間的な成長にも貢献しています。例えば「高齢者制度研究会」というグループがあるのですが、そこでは最初「シニアに関する制度を変えなければならない」「高齢者の制度はこうあるべきだ」といったことを声高に議論していました。理念や知識ばかりが先走っていたのです。しかし、勉強を進めて現場の状況が見えるようになると、自分たちがやるべきことが分かってきて、大言壮語はしなくなりました。学べば学ぶほど難しさが分かるので、みんな謙虚になっていくのです。
---今後の目標はありますか?
末積:インプット(勉強)したら、アウトプット(活動)してはじめて高齢社会の一助になれます。絵に描いた餅ではだめなのです。今後は私たちの生き方や考えを、より広く社会に提案していく必要があります。
会員の中に96歳になる男性がいるのですが、この人が私たちの目標になっています。3か国語を操り、おしゃれに気を遣っていて、会話も楽しく、いつも冗談を言って笑いあっています。立派な経歴をおもちなのですが、そんなことはおくびにもださず、いつも謙虚な姿勢を崩しません。忙しい方で各方面からお呼びがかかり、幅広い分野で活動しています。そんな彼が「いろいろな講座で学んできたが、SLAとして学んだ内容や活動は非常に質が高い」と誉めてくださいます。今後も彼が誇りを抱けるような協会であるために、質の高い活動を続けていきたいと考えています。
また協会はレクリエーション活動などを企画して会員間の親睦も図っています。SLAのいいところは、知識の習得だけではなく人との交流が盛んなところにあります。お互いに冗談を言い合い、親戚同士のような付き合いができ、みんなが集まりやすい雰囲気を大切にしたいと思っています。
---協会の会員数はどのような推移をたどっているのでしょう?
末積:協会の会員数については最大時で270〜280名ほどいましたが、高齢化や別の社会活動に進出する人などもいるため、減少しています。会員数にこだわる方もいますが、私は数についてあまりこだわりはもっていません。もちろん会費を納める方が増えれば活動の助けにはなりますが、大切なのは中身であり質なのです。会員が協会の研究会を通して高齢社会への理解を深め、SLAとして社会貢献することができるのであれば、数字にこだわることはないと思います。
◆SLAを通して人間の幅を広げる
---SLAを志望されている女性の中には、「興味はあるけれど、私には何もないので」と言って活動を躊躇している人をよく見かけます。そんな人たちにアドバイスはありますか?
末積:一歩前に出ることです。私も自信があってやったわけではないですし、みんなそうだと思います。ものを見るときに、今の場所から見る景色と少し前に乗り出して見る景色はまったく違ってきます。SLAの学びにはさまざまな知恵が詰まっています。SLAの資格を取ってみれば、視野が広がるようになり、感じ方も変化していくはずです。
SLAで活動した後、別団体の理事になった方がいるのですが、SLAでの学びで視野が広がったことが仕事にも活かされているとおっしゃっていました。最初はなにもなくても学習する中で成長していき課題も見つかるはずです。こんなに楽しく奥の深いことはありません。まずは一歩を踏み出してみてください。一度SLAを取得して考え方に核ができれば、時代や状況が変わっても問題の本質を見極められるようになるはずです。
---長く会社員として過ごした男性は、地域社会に溶け込むのが難しいといわれますが、これについてはどうお考えですか?
末積:男性はプライドが高く、会社員時代の価値観からなかなか抜け出すことができません。競争社会で生きてきた人は、どうしても他人と自分を比べて優劣をつけがちです。しかし、人生は比べるものではなく、人にはそれぞれの価値観があります。SLAで活動していれば、勉強だけでなく電話相談などで生きた学びもできますから、価値観の違いも理解できるようになります。そのため、いろいろなことを受け入れられる度量がついてくるのです。会社と地域社会はまったく別物です。まずは視野を広げ、他人を認めることだと思います。
---最後に何かメッセージがあればお願いします。
末積:これからは親子だからといって子供が親の面倒を見る時代ではありません。私にも子供がいますが、お互いに独立した人生を送るべきだと考えています。それぞれがSLAの理念でもある自助自立の精神にもとづいて生活し、足りない部分を社会全体でカバーしあうことが大切なのではないでしょうか。
SLAの学びには多くの宝物が詰まっています。すべての人に、この良さに気づいてほしいと思います。多くの高齢者が自立して充実した人生を送るようになれば、財政負担を減らすことができ、若者にもメリットをもたらします。
大げさな話かもしれませんが、日本国民全員がSLAを取得すべきだと思っています。
SLAという生き方を高齢社会全体に浸透させることが、日本の幸せにつながるのです。
◆九州シニアライフアドバイザー協会
ホームページ
http://www.k-sla.info/
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