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SRコラム

成年後見トラブル実話/知らぬ間に母親は施設・父親は病院

2025.03.21 更新

任意後見できる人に法定後見を被せようとした包括と弁護士の連携――

定年退職後、平穏に暮らしていた63歳のCさん(男性)は、次のことで困っていました。
1)突然見知らぬ弁護士から、「あなたの母親に頼まれて、あなたの父親に成年後見人をつける手続きを取るところです。これについてあなたは同意しますか?」という照会の手紙がきた
2)母親の居場所がわからない
3)父親の居場所がわからない

Cさんは、ここ1年ほど両親と連絡を取っておらず、弁護士からの手紙を受けて慌てて実家に行ったところ、両親の姿はありませんでした。
状況が呑み込めず、取り急ぎ弁護士に連絡したところ、母親はある施設に入っていることがわかりました。そして、その施設を訪ねると、母親は「元気じゃったか? みんなで新年会やろうや」と上機嫌になり、職員からは「息子さんが色々面倒をみて下さるなら安心です」と歓迎され、Cさんは少し安心しました。

孫夫婦にも声をかけて新年会の日程を決め、施設に外出許可を求めると職員の態度が豹変しました。まず「契約に関係した人の許可を取らないと外出できない」と言うのです。「契約に関係した人は誰か」と聞くと、「言えない」と拒絶されました。これでは許可を取ろうにもしようがありません。「外出がダメなら母親に新年会を延期すると伝えたい」と電話しても、「電話を繋ぐこともできません」と言います。おかしいと感じたCさんが施設に行くと、今度は門前払いされてしまいました。

Cさんは、職員のあまりの豹変ぶりに、母親が施設でどのような扱いを受けているのか身の上を案じ、妻と施設に行きました。母親は施設を出たがっていたので、職員とすったもんだの末、その日に施設から出してあげることができました。
母親をCさん宅に迎え入れると、母親から、父親がある精神病院に入院していると聞かされました。病院のホームページで面会手続きを調べて会いに行くと、「お父さんには医療保護者が付いています。面会にはその方の許可が必要です」と言われました。「医療保護者は誰か?」と聞くと「教えられない」とのこと。これでは許可の取りようもなく、つまりは会えないということです。
改めて病院の事務長に掛け合って、その日のうちに父親と会うことができました。父親は耳が遠くなってはいたものの、思いのほか元気でした。退院を強く望んでいたので、病院と話して1週間後に退院することになりました。また、主治医が、弁護士から「成年後見制度の手続きに必要だから」と言われて父親の診断書(成年後見制度用)を書いたこと、診断書は弁護士の手に渡ったことがわかりました。その診断書を見せてもらうと、次のように書かれていました。

【診断名】
嗜銀顆粒性認知症 (しぎんかりゅうせいにんちしょう)

【所見】
自宅で妻と2人で暮らしていた。妻の認知機能低下が進行し、自宅での生活継続が困難となり、施設入所となり、本人はひとり暮らしになった。その後、本人の認知機能低下が徐々に進行し、入浴や排泄といった行為が難しくなり、保清を保つことが困難となった。そこで、包括支援センターの介入が始まり、病院受診や介護サービスの利用を勧めたが、本人は拒否を繰り返した。加えて、金銭管理等も困難となり、自宅での生活継続が困難となったことから認知症専門医での診療を希望し、2024年8月8日に当院を初診した。
認知症に対する治療を外来にて開始することとしたが、自宅での生活継続を行うには、支援の拒否が強く、結果として本人の生命維持も危ぶまれる状況となったので娘と協議を行い、当院での入院治療を希望され、2024年8月27日に当院を再診し、診察の結果、同日より入院治療を開始した。

【判断能力についての意見】
支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない

この診断書から、地域包括支援センターが介入し、地元にいる長男(Cさん)ではなく、東京で働く長女(Cさんの妹・独身)にだけ連絡を取り、長女が保護者となって父親を入院させていたことがわかりました。
Cさんは両親を自宅に引き取りました。弁護士に法定後見の手続きをされ、見ず知らずの弁護士に父親の財産管理をされてはたまらないと考えたCさん家族は、まず弁護士に「成年後見制度は使わないので、そちらに頼んだこと(成年後見人の選任の申立てをすること)は白紙にする」と連絡しました。そのうえで、公証役場に行って、両親それぞれとCさんで任意後見契約を結びました。

信用金庫とのやり取りもひと苦労でした。父親が「キャッシュカードを作りたい」と言うので信用金庫の人に自宅に来てもらうと、「90歳以上の方はキャッシュカードは作れません」と言われ、支店長から「平日の営業時間内に窓口に来てお金を下ろせばよい」とまで言われてしまいました。95歳にもなる父親がいちいち隣町の信用金庫の窓口まで行かないといけないのか? 釈然としない支店長の説明を確認しようと、後日、本店を訪ねると、業務部長が対応し、「申し訳ございません」と支店の対応を詫びて、その場で発行手続きを取ってくれました。

Cさんは「しばらく両親と連絡を取らなかっただけで、危うく周りの人たちの都合のいいようにされるところだった」と一連の出来事を振り返っています。

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