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SRコラム

成年後見トラブル実話/約束が違う、早くここから出してくれ!
2025.03.23 更新
一時入所のはずが、保佐人をつけられて外出も面会もできなくなった幼なじみ――
雪深い、過疎地域での出来事です。70歳になるDさん(女性)は、幼なじみで隣家のEさん(72歳・男性)の一人暮らしを気にかけ、生活費の管理を含めて応援し続けてきました。Eさんの性格は明るいものの、両親は亡くなっています。また、妻とは離婚し、自衛隊に勤務する2人の子とは絶縁状態。そのうえ、炭鉱勤務時代からの住まいは古く、隙間風がいたく身に染みる状態だったからです。「このままでは今年の冬を越せないかも」と危惧したDさんは市役所に相談。状況を把握した市役所は、Eさんを施設に入所させる手配しました。
自由気ままな生活をしてきたEさんは入所を拒みましたが、Dさんの勧めもあり、また、春になったら帰宅するという条件で施設に入ることにしました。
春になり、問題が発生します。いつの間にか市役所が、Eさんに保佐人をつける手続きを家庭裁判所に取っていたのです。そして、市と関係の深い司法書士(女性)がEさんの保佐人になっていました。Dさんは、何がどうなっているのか理解できませんでしたが、市の態度が180度変わったことは感じ取りました。「春までの約束だった」というDさんに、「Eさんには保佐人がついたので市はもう関係ない。何かあれば保佐人さんと話して下さい」というのですから。
保佐人の事務所へ行くと、「他人のDさんには何もお話しできません」と突き放されるだけです。電話をしても着信を拒否され、繋がらなくなりました。保佐人を選んだ家庭裁判所に行って事情を話しましたが、状況は全く変わりませんでした。救いだったのは、Eさん本人と電話が繋がっていたことです。Eさんは「約束が違う、早くここから出してくれ」とDさんに懇願します。しかし、ほどなくEさんの携帯電話も繋がらなくなってしまいました。さらに、Eさんがいるはずの施設に行っても、「他の所へ行った。どこかは教えられない」と冷たい対応をされました。
困り果てたDさんは、あることを思い出しました。Eさんが施設に入って間もない頃、Eさんの通帳から施設利用料をはるかに上回るお金が引き出されていて、おかしいと思ったDさんは、Eさんと弁護士に相談していたのでした。そしてEさんがいた施設の職員は、「銀行には市の担当者以外が独りで行くか、Eさんと一緒に行っていた」と言っていたのです。
Dさんは、次のような推測をしました。「市の職員がEさんのお金を使い込んだ。その発覚を恐れ、市と繋がりのある司法書士をEさんの保佐人にする手続きを取った。そして、Eさんをどこかの施設に隠して事実を隠蔽しようとしたのではないか…」
保佐人となった司法書士は、Eさんが預貯金の調査を依頼していた弁護士との契約を解除しました。弁護士は「家庭裁判所が決めた代理人である保佐人から契約を解除されたのでは何もできない」とEさん自身の意向を確認することなく本件から手を引き、孤軍奮闘するDさんを突き放しました。
Eさんにも会えず動きが取れないDさんは、別の弁護士に相談したところ「DさんがEさんに貸したお金を貸してほしいとEさんを相手に裁判を起こし、証人尋問で本人が来ればEさんに会えるかもしれない」というアドバイスを受けました。裁判をしてでもEさんに会いたいと思ったDさんは、やむなくEさんを被告に、貸したお金を返して欲しいという裁判を起こしました。
裁判を起こしたことで、「Eさんはここには居ない」と施設長名の文書まで出して言い張っていた施設に、実はEさんがいたことが判明。司法書士は、騒動に巻き込まれたくないと思ったのか、Eさんの保佐人を辞任し、新たに弁護士が保佐人になりました。
裁判が始まりましたが、結果的に証人尋問は行われず、つまり、Eさん自身が登場する機会がないまま、Dさんの訴えは退けられてしまいました。おかしいと思ったDさんは、即時抗告をして、舞台は高等裁判所に移りました。しかし、そこでもEさん自身が登場することなく、Dさんの訴えは退けられてしまいそうなのです。
裁判の間に、Eさんのきょうだいの1人が亡くなりました。しかし、保佐人はEさんにそのことを一切伝えなかったそうです。
ひと冬越したら家に戻るはずが既に3年。自由気ままに暮らしていたEさんの生活は、友人や親戚に会えず、外出も買い物もできないものになってしまいました。Eさんがいるのは、田舎の中でもさらに人里離れた場所にある近隣地域の自治体による共同運営の施設です。Dさんが訪ねると、施設は直ぐに警察に通報します。そして警察は「帰りなさい」とDさんを突き返します。
「良かれと思ったことが仇となるとはこういうこと」とDさんはEさんに申し訳ない気持ちでいっぱいです。「Eさんが亡くなったことを風の便りで知るばかりなのかもしれない」ととても落胆しています。