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SRコラム

成年後見トラブル実話/身上監護後見人の財産管理権をめぐる裁判
2025.03.24 更新
監督人も後見制度支援信託も、追加の後見人も不要と突き返した親族後見人――
大手一部上場企業の管理職であるGさん(男性)は、父親の成年後見人(以下「後見人」といいます)になっていました。父親は、被後見人とはいえ、ある程度のことは理解できる状態でした。
Gさんが成年後見人になって5年が過ぎたある日、家庭裁判所(以下「裁判所」といいます)から次の内容の通知が来ました。
以下のいずれかを選び回答してください
1)監督人をつける
2)成年後見制度支援信託を使う
3)弁護士等の成年後見人を追加する
それまで何の問題もなく後見人を務めてきたGさんは、裁判所からとはいえ、きちんとした説明もない不躾な通知に憤り、苦情の電話を入れました。電話に出た後見係の担当書記官は「裁判所の方針です。どれも選ばないなら『3』になると思いますよ」と、またも合理的な説明なく話を終わらせました。
監督人、成年後見制度支援信託、追加の後見人については、裁判所の資料を見て何となくはわかりましたが、具体的に費用がいくらかかるのか、選択した後はそれぞれどうなっていくのかなどはさっぱりわかりませんでした。
専門家に聞いてすべてを調べあげたGさんは、いずれを選んだところで数十万円から数百万円の費用がかかること、いずれかを選ばなければいけないという法的な義務は無いことを確認し、裁判所に対し「どれも選ばない」と回答しました。
すると裁判所は、何の予告もなく、見ず知らずの弁護士を監督人につけてきました。
監督人がつくと、後見人の業務レポート(後見事務報告書)は監督人を経由して裁判所に提出することになっています。Gさんは仕方なくそれに従い、監督人にレポートを提出したところ、後日監督人から「面談したい」という連絡があったので休暇を取って、わざわざ喫茶店内の会議室を予約して面談に備えました。
面談当日、監督人は「ご提出いただいた報告書を確認します」と言って、Gさんの報告書を声に出して読み始めました。そして「以上、何の問題もありません」とだけ言って終わったので、身構えていたGさんは拍子抜けしてしまいました。
Gさん「それだけですか」
監督人「はい」
Gさん「何も問題が無いならメールや電話で済んだことで、こんな面談は要らなかったでしょ。そちらはこれが仕事かもしれないけど、こっちは会社を休んで来てるんですよ」と感情を露わにしました。
監督人「これが私のやり方です」
Gさん「これだけのことなら監督人なんて要らないでしょ」
監督人「監督人を辞めろと? 恐喝ですか?」
怒って感情的になった監督人は、テーブルのガラスが割れるかと思う勢いで分厚いファイルを「ドン!」と置き、「帰ります!」とコーヒー代を叩きつけて出て行きました。
その後、監督人から「裁判所が決めた監督人報酬を払え」と請求が来ました。Gさんは「父親に聞いたら払う必要は無いとのこと。本人の意向なので払いません」と回答したところ、監督人はほどなくその職を辞任しました。
裁判所は、監督人が辞めると同時に、父親の後見人に別の弁護士(以下「弁護士後見人」といいます)を追加しました。また同時に、Gさんから財産管理権を剥奪し、追加された弁護士後見人に財産管理権を与えました。
Gさんの権限は身上監護権だけになりましたが、父親が入所している介護施設への支払い分として備えるために、父親の口座から300万円引き出しました。これに対し、弁護士後見人から「財産管理権がないのにお金を引き出すのは不法行為である。全額返金せよ。返さない場合は不当利得で訴える」という通知が来ました。
Gさんは「裁判上等!」と受けて立ち、「私は、身上監護権を持つ後見人であるから、医療費や介護費用の支払いのため相当額を管理し、病院や施設に支払うことは当然の権利であり義務である。返金はしない」と弁護士後見人の要求を突き返しました。
その後、弁護士後見人は父親の代理人の立場でGさんを訴えてきました。原告は父親、被告は息子であるGさんです。これに対し、当の父親は「なんでこんなことになっているのか」と呆れた様子でした。
この裁判は、身上監護後見人の財産管理権に関して裁判所がどう判断するのか、社会的にも重要なテーマであり、Gさんも弁護士を立て裁判に臨みました。
しかし、終盤に差し掛かった頃、父親が亡くなって裁判は終了となり、法的な決着を見ることはできませんでした。
父親が亡くなったことによって後見が終了し、Gさんと弁護士は成年後見人ではなくなりましたが、後日、Gさんは弁護士に「話をしよう」と連絡しました。
会って話す中、弁護士は「Gさんを訴えるよう裁判所から事実上の指示があった。家庭裁判所の都合でご迷惑をかけて申し訳なかった」と打ち明け、謝罪しました。大手上場企業勤務のGさんは、裁判所にも組織理論があることを理解し「そういうことだったのですね」と今度は穏やかに話し合うことができました。
Gさんは「成年後見人としての報酬を請求してください。事情もお人柄もわかったのでキチンとお支払いします」と申し出ましたが、弁護士は「報酬は結構です。頂けるような仕事はしておりませんので」と辞退しました。