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SRコラム

成年後見トラブル実話/11年間で1,200万円の後見人報酬
2025.03.24 更新
「後見は美味しい仕事」という人がいるのがわかると語る弟想いの姉――
Iさん(女性)の弟さんは、大学卒業後に精神を患いました。父親の後妻との関係や就職活動が上手くいかなかったことが原因だったようです。Iさんのお父さんは精密機械会社の社長でした。昔気質で一人息子には特に厳しく接していました。
弟さんは、26歳のときに父親と取っ組み合いの喧嘩をして、それが原因でさらに深く心を病んで、そのまま精神病院に入院してしまいました。
その数年後、父親が亡くなりました。相続人は父親の後妻、Iさん、弟さんの3人です。相続にあたり、税理士から「弟さんに成年後見人(以下「後見人」といいます)をつけないと遺産分割はできない」と言われました。Iさんは「そういうものか」と思って、家庭裁判所(以下「裁判所」といいます)に後見人をつける手続きをしました。
それから1か月ほどで弟さんに後見人がつきました。見ず知らずの女性弁護士です。当時、弁護士後見人による横領事件がしばしば報道されていたのを気にしたIさんが、後見人に「先生は大丈夫ですよね」と言ったところ、後見人は激高して「失敬な! あなたとはもう話しません。私と話したければ弁護士を通してください」とすっかり不機嫌になってしまいました。そして、遺産分割は極めて淡々と終えました。
Iさんは、今までと変わらず月に1~2回は弟さんの様子を見に行っていました。両親が他界して姉弟二人だけになり、その弟も入院して18年。「このまま病院にいるだけでいいのか」「後見人はまだ若い弟の人生をどう考えているのか」という思いがにわかに沸いてきました。
ある日、私はIさんに同行して弟さんを病院に訪ねました。会ってみると、後見人を外すことは不可能と感じました。なぜなら、現行の成年後見制度では、財産に関する判断能力がある程度回復しないと後見を取り消すことはできないとなっているからです。長い間閉鎖的な病院にいて、外に出て買い物をすることもなかったので、お金に対する感覚もこだわりもすっかり鈍っているようでした。しかし、歩くことはできるし、コミュニケーションも成り立つので、病院を出て地域で生活できるのではないかと考えました。
病院を出るには住む場所がないといけません。Iさんは、地元で障害者のグループホームと作業所を運営している方に相談してみました。運良く受け入れ可能との返事がもらえたので、それを後見人に伝えたところ、「弟さんからはそのような話は聞いていない。病院からも聞いていない。そもそも病院を出る必要はない」と拒否されました。そうは言うものの、後見人は弟さんに一度も会ったことはないのです。地域生活に戻る機会があることを話してもいません。なのに、なぜ「必要ない」とまで言い切れるのでしょうか。
Iさんは、弟のために自分も後見人になろうと考え、「まだ先の長い弟の年齢を考えると地域社会復帰も一つの方法である。その実現のために私を後見人にして欲しい」と裁判所に後見人の追加を申し立てました。しかし、裁判所の回答は「現在の後見人に問題はない、1人で足りる」とIさんを後見人にしてはくれませんでした。
それから2年ほどして、弟さんが急逝しました。まだ40代でした。
葬儀を終えてひと段落した頃、Iさんは裁判所に対して、弟さんの後見に関する資料の閲覧謄写請求をしました。後見人が11年間どんな仕事をしていたかを調べるための情報開示請求です。
まず、後見人のレポートには、病院側が言ったことがそのまま書かれているだけでした。確定申告は自分の知合いの税理士にやらせて、弟さんの財産から割高な手数料を払っていました。後見人は、自分では手を掛けず人に丸投げしていながら、後見報酬として11年間で1千2百万円を弟さんの口座から引き出していました。Iさんいわく「後見は美味しい仕事といわれるのも頷ける」。
そして、後見事務報告書の中に重大なことが見つかります。後見人が、Iさんと弟さんの実家を相場の6割程度の価格で早々に売却していたのです。実家は弟さんが相続していたので、確かに後見人であればIさんに相談せず、弟さんの代理人として売却することは可能です。ただ、実家に強い思い入れがあるIさんは「私にひと声掛けてくれれば、しかもこの値段なら自分が買い取ることができたのに」と寂しそうに話していました。
Iさんは、実家があまりに安く売られたことを訝しんで、関与した不動産業者に経緯を聞くと、業者は「後見人からこの値段でいいから急いで売ってくれと言われた」と打ち明けました。数々の後見人の態度に苛立ちを募らせたIさんは、破格値で不動産を売ったことで相続財産全体の価格が下がり、ひいてはIさんが受け取る遺産を減らしたとして、元成年後見人である弁護士を被告に損害賠償請求の裁判を起こしました。
弟さんは亡き父親からかなりの財産を相続していたので、経済的には余裕があり、弟さんの存命中に不動産を売ってまで現金を作る必要性は全くありませんでした。弟さん自身は実家を売りたいとは一度も言っていないし、売却価格も不相当に安く、Iさんは後見人の行為は善管注意義務違反に当たると考えていました。しかし、一審も二審も、後見人の行為に違法性はないと判断され、Iさんは敗訴しました。
このような後見人が、今なお誰かの後見人であり、自治体の後見人養成講座の講師をしているのです。それが許されている現実に、Iさんは「誰もが後見の実情を知らずに信じきっている。同じ悲劇が繰り返されると思うと恐ろしさを感じる」と話されます。