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SRコラム

成年後見トラブル実話/田舎だからこんなふうに…

2025.03.30 更新

任意後見人と任意後見監督人の関係性――

長い間お母さんと疎遠だったOさんに、ある日突然「お母さんの任意後見人をしていた」という行政書士から次の内容の連絡がありました。
『お母さんが亡くなり遺産は477万円。しかし生前、お世話になった施設に遺産の全てを寄付するという遺言を書いている。ただ、法律上あなたは遺産の半分を受け取る権利がある。振り込みたいのであなたの銀行口座を教えてほしい』ということ。
実の母親が他界した事実をこのような形で知るに至ったことについて、Oさんは疎遠にしていたことを反省しました。同時に「故郷で何が起こっていた? どうしてこのような人が突如登場する? 任意後見ってナニ?」という不安とモヤモヤでいっぱいになりました。

Oさんは、母親が本当にその行政書士と任意後見契約なるものを結んだのかを調べるために東京法務局へ行き、任意後見契約があったことの登記事項証明書の交付を求めました。すると、東京法務局からは「そのような記録はない」と言われ、後見の登記がされていないことの証明書が交付されました。
後見の登記は、不動産や会社の内容を世に知らしめるための登記と同様に、誰が誰の後見人か(後見人であったか)が登録されているもので、登記事項証明書は後見人の有無を確認できる唯一の公的証明書です。しかし、その登記がないというのですから、Oさんは「行政書士を名乗るあの人物は嘘をついている」と勢い疑心暗鬼になりました。

行政書士から電話番号は教えてもらっていましたが、直接確認する気にもなれません。そこでOさんは、まず、亡き母の銀行から過去20年分の入出金記録を取り寄せました。その結果、2か月ごとに23万5千円の年金を受給していたこと、保険会社や証券会社と取引があったこと、どこの誰かわからない人に5万円、10万円、50万円、90万円と複数回に渡ってお金を振り込んでいること、ケアハウスに入所したときなのか、一括で177万円を払っていることなどがわかりました。
いよいよ怪しいと思い、現地に行って直接聞くしかないと覚悟して飛行機に乗り、久しぶりに故郷を訪ねました。

行政書士を訪ねると、自宅兼事務所で一人暮らしをしている男性でした。聞けば、地元市役所のOBで、退職後、行政書士になったそうです。登記は取れませんでしたが、公証人が作成した任意後見契約の公正証書を見せられたので、母親がその行政書士と契約していたことは確かでした。登記がされていないのにおかしいと思って詳しく経緯を聞くと、母親が入居していたケアハウスを経営する社会福祉法人の理事長と行政書士は旧知の仲で、身寄りのない入居者には入所時に任意後見契約を結ばせること、亡くなったら施設に全部遺贈する遺言を作らせることが慣習化されていることがわかりました。Oさんという身寄りがいたにもかかわらず、母親はそれらの契約を結ばされて、行政書士は任意後見契約書と遺言書の作成、任意後見の引き受け、遺言の執行をすることになっていたのでした。

悪質な囲い込みとOさんは直感しましたが、母親の様子を聞けたことは良かったと思いました。見ず知らずの人への振り込みについては、個人的に母親の世話をしていた人へのお礼であったとのこと。高いと思いつつ「終わったことだし、お世話になったのならもういいか」と問題にしないことにしました。そして、自分はもらうものをもらうこととして、行政書士にOさんの銀行口座の番号を伝えました。

Oさんは「それにしてもなぜ登記が取れなかったのか。当初から取れていればこんな不安な気持ちにならずに済んだし、わざわざ故郷まで来る必要もなかった」と思い、地元の地方法務局でいま一度、母親とその行政書士による任意後見契約の登記の交付を求めてみました。すると、今度は登記事項証明書が取れたのです。登記がされていたにもかかわらず、東京法務局ではなぜ「ない」とされたのか。書面で照会すると、東京法務局側のミスであったことが判明しました。公的な登記制度においてあってはならないことです。

任意後見登記を見たOさんは、任意後見監督人が母親が入っていたケアハウスを経営する社会福祉法人の理事長個人であることに気が付きました。任意後見制度のうえでは、任意後見人と任意後見監督人が親戚関係であってはならないという制約はあるのですが、この場合は他人の関係なので、このような形があってもおかしくはありません。しかし、よく考えると、理事長はOさんの母親に介護サービスを提供している事業者ですから、母親の代理人である行政書士の任意後見人と施設のやり取りを中立的に監督できる立場にはありません。利益相反の観点からすれば、少なくとも施設との契約や取引に関しては、理事長以外の者が監督するべきというのが定説です。しかし、地元の家庭裁判所の裁判官はそれを考慮せず、理事長を監督人に選任したのでしょう。

Oさんは言います。「私と母が疎遠だったのをいいことに、地元の関係者がすり寄ってカモにされただけのような気がします。田舎だからこんなことがまかり通ってしまう。だからここが嫌なんです」と。

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