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ほっちゃれ
人生の半ばを過ぎて、残された時間を慈しみつつ生きようとする隆介。その彼にとって、おおらかで奔放な紗江との8年越しの逢瀬は、自分が今を生きていることの証でもあった…。
■紹介文
若い頃、一夜の契りを交わした隆介と紗江。それから15年の歳月を経て再会し、家庭を持つ身ながら、生命のエネルギーを確かめ合うようにお互いにおぼれていく。
人生の充実した時間を迎えた男女が、1400キロの距離を越え、長い年月をかけて醸し出してきた古酒のような味わいのコミュニケーションを手慣れた筆で描いた恋愛小説である。
タイトルの「ほっちゃれ」とは、最後で最大の任務である産卵を終えて身体中ボロボロになって死にかかった鮭のことをいう。秋の半ばごろに海から戻ってくる鮭は、子孫を残すために命がけで川を遡上して産卵したあと、力尽きて一生を終える。そんな状態の鮭に隆介自身の一生をなぞらえたのかもしれない。
■感想
本作のモチーフは、作品全体に常に流れている「時間」である。人生の半ばを過ぎ、残された時間を意識しつつも明日への時間を慈しもうとする隆介。その彼にとって、おおらかで奔放な紗江との性愛は、自分が今を生きていることの証でもあった。時おり訪れる肉体の不如意を紗江との情熱で克服するくだりに、「自己実現への欲望の一部、またはすべてが減退していくことを意識するのは怖い」という隆介の苦悩が巧く表現されている。
◆出版社 / 文芸社 ◆定価 / ¥1,575(税込)