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SRコラム

成年後見トラブル実話/お金を何に使おうが私の自由のはず
2025.03.21 更新
任意後見制度を使ったばかりに間食・新聞購読・宗教活動を禁じられた87歳――
87歳になるBさんは、看護師として定年まで勤めあげました。幼いころから敬虔なクリスチャンで、礼拝には欠かさず参加し、一定の献金もし続けてきました。Bさんはいわゆるおひとりさまで、80歳を過ぎた頃から炊事、洗濯、掃除などをヘルパーさんに頼むようになり、ヘルパーさんの訪問を楽しみに待つ日々でした。
ヘルパーさんもBさんのことを母親のように慕うようになり、「Bさんを最期まで支えたい」という思いになっていきました。その気持ちから、ヘルパーさんは社会福祉士の資格を取得して独立しました。そして、Bさんと元ヘルパーさんであった社会福祉士は、Bさんが認知症になってからの財産管理や介護事業者との契約等を自分が代理代行することを約束するため、近くの公証役場でBさんと任意後見契約を結びました。
数年後、Bさんは認知症で判断能力が下がってきていました。任意後見契約で受任者となった社会福祉士は、Bさんを心配して「そろそろ任意後見契約をスタートさせよう」と話し合って、その続きを家庭裁判所に申請しました。
しばらくして、Bさんと社会福祉士のもとに、家庭裁判所から「任意後見監督人(以下「監督人」といいます)として、裁判所に登録している女性弁護士を選任した」という連絡がきました。監督人が選任されたことで、社会福祉士は晴れてBさんの任意後見人となりました。そして、「今後のために、関係者みんなで顔合わせをしよう」ということになり、主役のBさん、後見人となった社会福祉士、監督人となった弁護士に加え、ケアマネジャーと社会福祉協議会の後見センターの職員がBさん宅に集い、顔合わせ会合が開かれました。
後日、後見人である社会福祉士は、監督人からBさんのお金の使い方について次のことを言われました。
1.おやつ代無し
2.新聞購読中止
3.教会への献金減額
後見人はビックリしました。というのも、おやつについては、確かに先の顔合わせの席で、Bさんは「食事は昼と夜のお弁当だけ」と言いました。しかし後見人は、牛乳、バナナ、お菓子などBさんのおやつ代として週2千円程度をヘルパーさんに渡して買ってきてもらい、Bさんもそれらを飲んで食べていたので、決して無駄遣いをしていたわけではありません。
新聞については、確かに読まない日もありますが、ほぼ毎日目を通しています。新聞代は月8千円で、Bさんの預貯金や年金から十分払える金額で、負担が大きいわけではありません。
教会への献金については、監督人は「お賽銭程度でよいのでは」と言ってきました。要するに、人によっては5円だったり100円だったり、1千円や1万円だったりするから過分だと言いたいのでしょうが、キリスト教には献金額に一定の決まりがあるので、それに則っているだけです。しかも献金は、個人の自由な信仰活動の一環であり、Bさんに任意後見人がついているからといって、憲法で保障された信教の自由が制限されることはおかしいです。
これらの禁止については、さすがにBさんも怒りを露わにして「自分のお金を何に使おうが私の自由」と紙に書いて、後見人を通して監督人に抗議しました。しかし、監督人は方針を変えません。それどころか、「監督人に歯向かうとはけしからん」と言わんばかりに、家庭裁判所に対し、後見人をクビにする手続きを取ったのです。
Bさんと後見人は、家庭裁判所が監督人を叱ってくれると思っていました。しかし、家庭裁判所は監督人の主張を全面的に受け入れ、Bさん自身が望んで決めた後見人をクビにしてしまったのです。
後見人は、高等裁判所に「家庭裁判所の決定はおかしい」という不服申し立てをしました。申立書には、Bさん自身が想いを綴った手紙も添えました。しかし、高等裁判所も家庭裁判所の決定は間違いではないとお墨付きを与えた結果になり、これでBさんと後見人の関係は法的に断絶されることが決定してしまいました。
Bさんはこのことを、地域包括支援センター、社会福祉協議会、自治体の福祉課などに相談するものの、むしろこちらが悪いかのような態度を取られて八方塞がりで、味方がいない中での地域生活は窮屈なものになってしまいました。
実は、監督人は後見人を辞めさせる前から、家庭裁判所に対して後見人を代えるための手続きを取っていたのでした。ほどなくして、家庭裁判所は、Bさんにとってはまったく見ず知らずの弁護士をBさんの法定後見人とすると決めました。
Bさんは認知症の診断は受けていますが、何も理解できないわけではありません。実際、医者からは「それなりに分かることはある」という診断書が出ています。しかし、Bさんの言うことには誰も耳を貸さず、完全に無視され、これからのBさんのお金の使い道は家庭裁判所(国)が一方的に選んだ法定後見人が決めることになります。
しかも、Bさんは自分が望まない後見人に多額の報酬まで払わされるのです。
後見人だった社会福祉士は、現在も一人の友人としてBさんと交流を続けており、「気力も体力も急激に衰えてしまっているようだ」とBさんの身を案じています。