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SRコラム

成年後見トラブル実話/自分亡きあとの子の行く末 (2)

2025.03.30 更新

娘の後見を取り消した1か月後に他界した父の訴え――

勝気だったお母さんが亡くなり、Nさんは80歳のお父さんと二人きりになりました。お父さんは穏やかな方で、二人の生活はひっそりと静まり返ったものになりました。「家のことは妻に任せっきりだったから」と言うお父さんは、朝食と夕食を作るようになります。「味噌汁を作っても汁しか飲まないんですよ。野菜とかいっぱい入れてあるのに」とこぼしながらも、Nさんのために毎日一生懸命です。
当のNさんは、相変わらず決まった時間に家を出て、会社で仕事をして帰宅します。週末ドラッグストアなどに行くときは、お父さんに「お金ちょうだい」という仕草を見せます。千円を渡してもその仕草をやめません。もう千円渡すと黙って出かけるといった具合なので「2千円必要ってわかってるんだよ」とお父さんは嬉しそうに言います。

Nさんの後見人は、二人目についた弁護士だけになりました。前任者の不行跡を知っていたようで、お父さんに比較的丁寧な対応をしていました。お父さんは「この人ならいいか」と割り切るようにしていたのですが、「成年後見制度のせいで妻が死んだ」という思いは拭いきれませんでした。

弁護士の後見人に加え、弁護士の監督人はそのままという体制で、二人に報酬を払わされるわけですから、その額は月10万円近くです。「あと30年払い続けるとしても月10万円なら3,600万円。貯めたお金が全部なくなっちゃう。裁判所が決めた弁護士後見人を裁判所が決めた弁護士監督人が見張るのは無駄」とお父さんは嘆きます。

鬱々としたまま1年が過ぎ、お父さんが奮起します。亡き妻の弔いを兼ね、自分を娘の後見人にするよう裁判所に求めたのです。成年後見制度は、家族が無償で後見人になることを前提として制度設計されたものなので、当然の要求と言えるでしょう。しかし、裁判所は1年経って答えを出さず、何も言ってきません。
お父さんは次なる手に出ました。「娘は本当にお金に関して何もわからない後見の状態なのだろうか? ほぼ分かっていると思うし、働いてお金も稼げている。何も分からないなら働くことすらできないのでは?」という思いが強くなったこともあり、Nさんを幼いときから診ていた医師と現在診ている医師の二名に診断書(成年後見制度)を書いてもらうことにしました。すると、いずれも保佐相当。すなわち、支援があればできることがあるという評価でした。「後見の状態でないことを知ったら、家庭裁判所は後見を取り消さなければならない」という法律もあり、お父さんは裁判所に「後見取消の申し立て」を重ねて行いました。

後見人に追加して欲しいという申し立てから2年半、娘の後見開始の審判を取り消して欲しいという申し立てから1年半が経過しました。しかし、裁判所は追加するともしないとも、取り消すとも取り消さないとも結果を出しません。家庭裁判所の手続きを定めた法律(家事事件手続法)には「裁判所は、家事事件の手続が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行しなければならない」とあります。お父さんは「書いてあることとやっていることが違う」と3本目の弔いの矢として、担当裁判官を訴えることにしました。
しかし、表立ってこの訴えを引き受けてくれる弁護士が見当たりません。結局、心ある弁護士のアドバイスを受けながら、お父さんは独りで闘うことを決め、法廷に立ち続けました。そして、Nさんはその姿を見守り続けました。

この裁判で、地方裁判所は「裁判官(国)の行為は問題ない」としました。お父さんは当然、高等裁判所に不服申し立てをして判断を求めました。しかし、高等裁判所も「問題ない」という結論を出し、事実上裁判は終わりました。決められた手続きを取ったにもかかわらず裁判官が答えを出さないことについては誰も責任を問われず、答えを待つ間も発生し続けた後見人と監督人の費用負担については、当然に支払うものと結論付けられたのでした。裁判官が裁判官を裁くわけですから、仲間内のかばい合いと言われても仕方ないでしょう。

裁判が終結した直後、突然、家庭裁判所から「Nさんにした後見を取り消す」という審判書1枚が送られてきました。裁判官がなぜ2年も答えを出さずにいたのか理由説明はありません。お父さんは「だったら最初から取り消してよ。あんなに大変だったのに…」と複雑な感情を吐露しました。
その1週間後、お父さんが倒れます。息が苦しいと知人に電話で助けを求めて、緊急入院から2週後、帰らぬ人となってしまいました。肺ガンでした。
亡くなる前、Nさんに「お父さんはこんなんになっちゃったよ。これからはあなた一人だよ。自立して生きるんだよ」と力を振り絞って声にして伝えるお父さんに、Nさんはいつものように小刻みに、何度もただ頷いていました。

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