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SRコラム

成年後見トラブル実話/親族後見に移行して解決!
2025.03.31 更新
専門職後見人の課題――
「叔母の後見人が相続のことはわからないと言って手続きをしてくれない。相続税の納付期限が迫っていて困っている」とQさんから相談がありました。叔母さんとはQさんの母親の妹です。
状況を伺うと、
●叔母の夫が亡くなった
●亡くなった叔父には前妻との間に2人子どもがいるが、叔母との間に子どもはいない
●叔母は認知症で施設に入っており、意思表示ができず、社会福祉士の成年後見人(以下「後見人」といいます)がついている
●叔母に後見人をつける申立てをしたのはQさんの母親で、妹を心配してのことだった
●後見人がついているとはいえ、Qさんは母親から「何かあったら妹をお願い」と頼まれている
●前妻の子らは叔母夫婦の世話を一切せず、見舞いにも来なかったので、主にQさんとQさんの母親が世話をしてきた
叔母夫婦の事実上のキーパーソンであるQさんの母親は、高齢で自ら行動することは難しくなっていたので、叔母夫婦のことはQさんが一手に引き受けることになりました。
叔父が亡くなったことで相続の手続きが必要となりました。相続人は配偶者である叔母と前妻の子2人です。叔母は、最低でも遺産の2分の1をもらう権利があるので、後見人はそれを取得するために、すなわち本人の利益のために、自ら相続手続きに着手すべきでしたが、「私は相続のことはわからない」と言って動こうとしません。そうこうするうちに相続税の納付期限が迫ってきて、急いで手続きをするよう後見人に迫っても逃げるばかり。Qさんがひとり気を揉んでいたのでした。
専門職後見人とはいえ、福祉が専門の社会福祉士には相続は畑違いでわからないこともあるでしょう。仮に法律が専門の弁護士が後見人だったなら、逆に福祉のことが不案内かもしれません。専門職後見人とはいえ、万能のスーパーマンではないのです。しかし、目の前には福祉も法律も必要な人がいます。社会福祉士の後見人はどう行動すべきだったのでしょうか。
簡単なことです。自分でできないと思ったら、できる人に頼めばいいのです。後見人は本人の代理人なのですから、この場合、後見人の権限で司法書士に委任して全部やってもらえばよかったのです。後見人になるような専門職ならそれくらいわかっていたはずですが、おそらく司法書士に支払う報酬額、疎遠だった前妻の子と連絡を取らなければならない煩わしさ、仮にも専門職であるから安易に人に頼ることができない等々で悶々としてしまったのかもしれませんが、本当のことはわかりません。
業を煮やしたQさんは、家庭裁判所に「私も後見人に追加してください」と申し立てをしました。この申し立てはすんなり認められたのですが、ほぼ同時に、社会福祉士は後見人を辞任してしまい、結局、後見人はQさん一人となりました。Qさんは社会福祉士と一緒にやるつもりでしたので、成年後見制度や後見人のこと、まして相続のことはさっぱりわからないままに就任。相続処理もさることながら、後見人に就任した者には、まず本人の財産や身の上に関する報告書を家庭裁判所に提出する義務があります。未処理の仕事を丸投げされて過去の書類もやるべきことも山積みで、Qさんは不安の渦中で相談されたのでした。
ほどなくして、Qさんは相続のことは司法書士にすべて任せ、自分は後見人としての義務を果たすことに注力すると割り切ることにしました。数か月の時間は要したものの、相続手続きは無事に終えることができました。後見人として叔母の相続分をしっかり確保し、あとは主に叔母の見守りが中心となりました。意思表示ができない叔母にとっては、後見人がいたことで、夫が残してくれた貴重な財産をちゃんと受け取ることができました。
後見人の仕事は、まず就任時に本人の現況や財産を調査して家庭裁判所に報告(初回報告)することです。本人の状態や住環境によっては、入所や自宅改修の契約もあるでしょう。多少忙しくはありますが、それが落ち着くとほぼ見守りが中心になります。最後は本人の死亡時と死亡後です。身寄りがなければ火葬・埋葬をすることにもなるでしょう。
このように、後見人の仕事は最初と最後にひと山あり、たまの緊急時対応はあるかもしれませんが、あとは比較的穏やかな流れになるのがほとんどですから、親族でも十分に対応できます。本人が施設や病院にいるのなら会いに行って話をして、今までどう生きてきたのかに思いを馳せ、「おそらくこう思っているだろう」と聞こえない声を聞くことが大事であることから、むしろ親族の方が適任といえます。
成年後見制度は、認知症の人の個人財産が滞らないようにするための国の経済政策といえますので、とかく財産管理面で語られることが多く、どうしても専門職偏重になってしまっています。「弁護士後見人は何もしないのに報酬が高い」など家族からの不満が噴出して、成年後見制度は怖いという印象につながっています。専門職偏重をやめて、親族がいる人なら親族中心に後見人を選任する風潮になれば成年後見制度は怖くありません。
そもそも、成年後見制度の趣旨では、後見人は親族を想定していました。家族制度の時代では、後見人候補の第一順は配偶者でした。そして、財産は家全体で守るもので、他人の介入は容易に認めていませんでした。決して懐古趣味ではありませんが、成年後見制度は専門職の生業のためにあるのではなく、制度を使う人のためのものであることを、原点に返って見つめ直して欲しいものです。